恋の始まりなのかもしれませんね。

愛とそんなに素晴しいものか?
と、考えて苦しんでも現世を生きるおいらは無謀に無作為に性懲りも無く恋に落ちてしまうのだ。
あれは今思えば、疲労が見せた幻想だったのかもしれない。それほどに彼女との出会いは非現実的だった。月曜からの勤務時間が累計52時間を越えた仕事終わりの木曜の夜9時、日々の疲れから立ち寄った近所のコンビニに彼女は現れた。この田んぼだらけのド田舎の真ん中に点在するコンビニの駐車場に彼女は白と黒を基調としたゴスロリファッションで三輪の原付バイク、道路交通法違反のノーヘルというインパクト大の登場だった。俺はその彼女を初めて見て思った事は、「疲れで幻覚が見える」でも無ければ、「ヘルメット無しの原動付き自転車は危ないよ」でも無く、「あぁ、俺はいつも奇妙な人と出会う運命なのだな」であり、彼女はそんな俺を目視出来たのか、気付かなかったのか、それとも気付き無視したのか、とにかく彼女は俺の前を物凄い勢いで通過していった。後に残ったのは原付の残音と突っ立ったままの俺。家に帰り飯を拵え食し、風呂に入る。思い出すのは下妻物語を連想させる彼女の容姿。
あぁ、俺はもしかしたら恋に落ちたのではなかろうか。と、気付いたのは明くる日の仕事中。休憩時に携帯を弄っていたら先輩に「おぉ、彼女にメールか?」と言われた瞬間、脳内を横切った彼女の姿。きゃははは、俺ってもうアホ丸出しやん。
23歳の大の大人が、推定10代後半の女子に恋しとるんやと、アホでロリコンやん。きゃははは。あぁー面倒くさい。先週、自ら関係を絶った元カノに電話して全面的に俺が悪かった。と謝罪の念を伝え、元の関係(友達)に戻ったばかりだというのに、何をとち狂ったのか恋に落ちるなんて、それもどこの誰だか知らんゴスロリ女に……。
馬鹿だ。俺は究極的に馬鹿な男だ。今の俺に必要なのはゴスロリ女でもなければ、元カノでも無くこのバイトという雇用形態を逆手に取られて週65時間という地獄的激務+アレルギーからくる全身の痒みの日々を脱出して、もっと有意義な日々を送る事なのに。もっと楽して生きたのに。あの将来性も夢も希望も無い仕事に対する怒りのなのに。何故この瞬間に恋に落ちるんだ。そうゆうタイミングはもっと自分に将来に余裕のある時にひょこっと訪れれて欲しいな。
なんて、自分の運命を呪いながらも俺はアホで究極的に馬鹿なので夜9時になれば彼女と出会ったコンビニに向かい、キョロキョロと周りを見渡すのであった。