ビオです。

「生きることが、これほどまでに辛いとは」
彼は、まるで人生を謳歌した老人のような戯言をほざいていたのは、夏真っ盛りの午後でした。
 私は、彼が一人に成る事によって更生して真面目になってくれると、期待して心を閉ざし、彼の問いかけにも閉口をたもっていたのですが、私の思惑とは違い彼の素行は悪化の一途を追いました。
 仕舞いには、私の代わりを創作して孤独から逃げ出すという最悪の選択を引き抜くという愚行にでたのでした。まぁ、結果はツインファミコン並みの粗悪な出来でしたが。
 ここ数日、彼は神の悪戯か、悪魔の誘いか、人生上知り合った友人と数多く逢いました。逢わなかった人といえば、元カノさんくらいです。
逢う人逢う人が口々に「今何しているの?」と、訊ねてきました。
彼はこういう時、決まって照れ隠しと相手を不安にさせないために薄ら笑いを浮かべてこう答えました。
「いやぁ、仕事をばっくれて東京や沖縄に遊びに行ったらさぁ、帰ってきたものの会社が怖くて土下座も辞表も出しにいけない状態な訳なのよ。もっか無職かどうかも分からない訳さ。まぁ、大丈夫だと思うよ。クビになったと思うし、それならそれでバイト始めるなり、仕事探すし。ホント、仕事は真面目にしなくちゃダメだぞ。にゃははは」
(人により、言葉を若干変えますが、内容の変化ありません)
彼は明るく友人に言いますが、友人さん達は事の重大さを彼の実年齢と社会通則に照らし合わせて、顔を曇らせ「本当に大丈夫?」と問い質してきます。
彼は内心、大丈夫なわけねーだろ!! 去年のハローワーク通いの辛さを思い出したら。(涙)と思いながらも下手くそな作り笑いを浮かべて「大丈夫」と言いました。
彼は、いつもそんな友人さん達と別れた後、さっきまでの笑い顔とは打って変わって、しゅんとした顔をして空を眺めます。そして、私に対して「世界の真理」や「人の心」「将来の展望」など、えらい大きなテーマを刻々と呟き、喋りの締めに「なぁ、自業自得だけど、すべて面倒臭い」と言い放ちました。
彼は人生上、どうしようもない状態に陥ると決まって「面倒臭い」と呟き、全ての行為を無駄だと決めつけ、怠惰の限りを尽くし、時に泣き、叫び、人恋しさに外に出て人の視線に脅威を感じて部屋に籠もる。本当に駄目な人間になってしまうのです。いや、なっています。


彼は、最近書店にて太宰治の「人間失格」の漫画版を読みました。原作の方は、高校時代に母親の本棚にあったのを読みました。原作のほうは、若かったせいと、そのときはまだ絶望を知らなかった為になんともなく乗り切りましたが、漫画版を読んだ事によって、何かを噴出した模様で「主人公は俺だ」と、言い出し、漫画だから判りやすい。と絶賛。
彼は、そのことを長年の友人に話し勧めたところ、「お前はもっと希望に満ちた話を読みなさい」と言われました。彼は自分の推薦を断れ、己の趣味を悪趣味と捉われたと思ってしまい、彼は激怒して「俺は真っ暗な絶望が見たいんだよ」と激昂しました。友人は飽きれて聞こえない振りをしました。
昔から彼は、暗い話が好きでした。「ヒミズ」が連載時、毎週月曜は読む前ウキウキ読後ウツウツと喜び、「プラネテス」は主人公星野君が狂う辺りで涙を流し。「SWWEEET」も大好きでした。思えば、小説を読み始めたのも、小説には暗い話が多いからだったのかもしれません。
これは私の個人的な意見ですが、「暗い話」を好む人は、その暗い話を自分の人生を以って表現しようとする傾向があると思います。これは、小さい子がヒーローアニメを見てヒーローに憧れる事と似ています。または単に暗い話を好む人の思考が幼いという事かもしれません。暗い話は、大概主人公は幸せになれません、それを分かっていながらその暗い隘路を進むのは何故なんでしょう。人は生まれながらみな幸せになりたい願望があると聞きます。彼はどこでその備え付けの願望を無くしてしまったのでしょう。
一つだけ私が思うには彼はきっと「幸せになる権利」がないと思っているんです。


彼は、寝る前にそっと部屋の隅を見て「もうダメだ」と言って夢の中に沈んでいきました。
彼はきっと何がダメでそのダメをどうしたら、ダメでなくなるか分からない状態のようでした。