昔と今

ビオランテは雨吹きすさぶ中コバチを探して走り回っていた。
「いつもの精神的にワーッてくる病気で家出て行ったと思ったら、いつまでたっても帰ってこないで……。どこ行ったのよ?」
走り疲れてトボトボ国道を歩くビオランテの前に、砂利の敷かれた空き地で傘も差さずに立ちすさむコバチの姿が見えた。
「こ、コバチさん?」
「あぁ、ビオランテか……」
「どうしたのこんな空き地で傘も差さずに、風邪引くよ」
「この空き地ね。昔、昔って言っても10年位前は潰れたレストランがあったんだ。あの頃、小学生だった俺と近所の友達は幽霊の出るレストランだ!なんて言って、勝手に恐がったり、不法侵入して探検してたんだ。ほんの3年前。ここのあったレストランは一日で解体され空き地になってしまった。」
「そう。それで……」
「3年前、壊されるレストランを見るときは何も思わなかったのに……。最近、妙に思い出すんだ。あの壊れたレストランを、ユンボに解体されるレストランを」
コバチは雨に降られながらもコブシを握り締め、苦しむように言った。
「でも、もう…そのレストランは無いのよ。雨が強くなってきたよ。うちに帰ろう。」
ビオランテコバチの腕を掴むと家の方向へとぐいぐい引っ張り歩いた。コバチも空き地を名残惜しむように見てはビオランテに連れられるまま家へと歩いた。
「ビ、ビオランテ!!ちょっとまってよ。」
コバチは中古自動車販売店の前で足を止めた。
「なによ?」
「ここの店、車屋じゃなかったんだよ。ほんの2年前はコンビニがあって……俺の町に始めて出来たコンビニだったんだ。町中が喜んで、俺なんて毎日のように通ったよ。そうだ。このコンビニでよく元カノと話したっけなぁ。冬の寒い日、中学校の帰り道よくここで話したっけなぁ」
雨は時を経つごとに強くなり、風も吹いてきました。
コバチさん、いい加減に現実を見なさいよ!あなたが言う過去なんてもうココには無いのよ。いくら懐かしんだって過去には戻れないの!!今を生きてよ。」
「あはは、現実を生きれないからこうやって過去の中で生きてるんじゃないか……。もう俺には未来なんて無いんだよ。明日のこと、明後日もこと、一週間後、一ヵ月後のことは想像できても、一年後、五年後、十年後は想像できないんだ。俺はどうせもう長くは生きないんだ。数年後、いや今年中に死ぬはずなんだ。病気やゲガじゃなくて自殺で……」
コバチの目は側溝で氾濫するドブ水のような色の淀んだ色をしていた。
「こ、コバチさん。生きてよ!!頑張って生きろなんて言わないから、ぐずぐずでもなんでもいいからとにかく生きて……」
「てめーに慰めてもらうほど……。脳内の存在に慰めてもらうほど……。わぁぁぁぁぁ!!!!」
コバチは勢いよく走り出すと、足を滑らし長雨で増水する側溝にずるっと落ちた。
「コ、コバチさん!!大丈夫?」
「わはははははぁぁぁ。これで俺はガンダーラに行ける!」
コバチは意味不明なことを言いながら、どんぶらこっこどんぶらこっこと川に流されていったとさ。


≪ウソばなです。真実10%ぐらい≫


台風来るらしいですね。皆さん気をつけて……。