元祖高木ブー伝説(筋肉少女帯)

三十七回目のブログ

コバチです。
結局僕はガンダーラにも極楽にもシャングリラにもニライカナイにもネバーランドにも行けませんでした。何処にも行けませんでした。
行けた場所といえば、あの側溝から流されてちょっと大きめの側溝に流れ落ちたぐらいです。どんなに行っても僕は側溝から抜け出せませんでした。ガンダーラに行けるなんて大口叩いたって結局は側溝です。側溝から側溝へと……。人間どんなに偉くなってもどんなにお金持ちになっても所詮は側溝の中です。孫悟空とお釈迦様の手の話のように、所詮は人生はすべて側溝の中です。俺は側溝生まれ側溝育ち、悪そうな奴らは大体友達です。

側溝から這い出て家に帰り、シャワーを浴びて、雨の中今度は傘を差してジャンプを読みにコンビニに行きました。さすがに雨が強いせいと夕方のせいで客はいなく、伸び伸びとジャンプを読みました。一通り読み終えて、店を出たその時でした。「コバチ先輩ですか?」急に背後から呼びかける声に驚きつつ振りかえると、そこには二十歳くらいの女性が立っていました。よく見ると何処かで見たことがあるような顔。僕が思い出そうと脳にグーグルサーチをかけていると……。「ワタシですよ。中学校の時、剣道部の後輩だった石井(仮名)ですよ。」あぁ、思い出しました。中学生時代は無垢な一少年だった僕は今とは違い、いくらかポジティブ野郎だった僕は剣道部でも面白ポジションを維持でき、後輩達をよくからかって遊んでいました。石井さんとはそんな後輩の一人でした。
「ひさしぶりですね」
「そうだね……」
僕の心の中はなんだかこの胡散臭いシュチュエーションに「ドッキリだ。絶対に僕を騙そうと友達がしかけてるんだ。ほら、あそこのスモークの張られたワゴン、絶対に中で僕のこのおどけた顔を笑っているんだ」なんて疑心暗鬼になっていました。
コバチ先輩は今なにやってるんですか?平日にこんな所ってことは、今日はお休みですか?」
「いや、夏休み。大学四年。石井は何やってるの?」
「あっ、いやぁ……今日は仕事休みなんです。来年結婚するんで、最近忙しくて休めなかったんですよね。」
「へぇ〜。結婚するんだ」
僕は冷静に対処していきます。いつもの僕ならどもってしまう所ですがこれは全てが演技、ドッキリカメラだと分かっているのでもう怖くありません。僕も演技で対抗します。
「はい。子供が来年生まれるんで、その前に結婚しようって彼氏が言うんで……」
石井はお腹をさすりながら恥ずかしそうに答えました。
できちゃった結婚。おめでた結婚です。確かにお腹が大きいような気がします。でも、それも演技でお腹の辺りにはどうせクッションでも入れているのでしょう。擬似です。
「おめでとう。いいお母さんになるよ。部活でも面倒見よかったし」
嘘です。僕は石井が面倒見がよかったかどうかなんて覚えていません。そう言ってやれば相手が喜ぶなら手前味噌な嘘だって言います。汚い大人です。
「そうですか。嬉しいです」
ほら、石井も喜んでいる。これでいいんです。嘘で喜ぶなら嘘をつきまくって嘘だらけになって嘘の川に流されて嘘の側溝に落ちるだけです。
「ここで会ったのもなんですから、携帯番号とアド教えてくださいよ」
僕は金を払っていないため繋がらない事を先に言って番号とアドを教えました。
ムニュムニュとボタンを押しながら自分の携帯に登録する石井は、思い出したように僕に言いました。
「あっ、そういえば先輩、元カノ先輩とはまだ付き合っているんですか?」
僕のルサンチは限界でした。石井から携帯を奪い取ると傘を開き大急ぎでその場を立ち去りました。
これでいいんです。来年奥さんになる後輩ともしかしたら不倫とか出来るかもなんて不純なことを考えていた自分を殺すためにもアドなど教えてはいけないんです。どうせ、石井だって家に帰ったら僕のことを彼氏に話します。彼氏は自分以外の男の話など聞く耳など持つはずがありません。それでも石井のことです長々と話すはずです。それにキレた彼氏は石井を怒って、言い返して、喧嘩して……仲直りして……。
もうこれ以上、僕をいじめないでください。
ひとりで生きたいんです。そして一人で死にたいんです。
もうもう、コリゴリです。
チャンスとかドッキリとか勘弁して下さい。

現在、9月6日午前1時35分です。