月になりたい

台風の近づくある日の深夜。コバチは近所のコンビニに向かいたんぼ道をフラフラ歩いていた。深夜の1時往来する車も少なく、秋風が吹く静かな夜だった。
たんほ道の先に輝くコンビニのまばゆい光。
「へぇ〜え、コンビニ遠いぃ。健康の為なんて言わないで原チャリ乗るんだった。徒歩は辛い」
愚痴りながらもコバチはコンビニへと入っていった。


──1時間後の自室。
ビオランテは一人でTVを見ていると、突然すごい轟音が外から近づいてくる。その音は家のなかに入ると部屋に近づいてくるのだった…。
ドタドタドタッ…。
「えっ、なに?暴走族?ガサ入れ?サツ?!」
動揺するビオランテを尻目に部屋のドアが開いた。
ビオランテぇ〜」
ドアの先に青白い顔をしたコバチがいた。
「ど、どうしたの?コバチさん…」
「もう俺、生きていくことが辛くなったからオタクになる」
「えっ、なんで急に……」
「聞いてくれる俺の理由?」
「まぁ、そりゃあ、私はアンタの脳内の存在だし…。アンタが聞かせたいなら聞くよ」
「実はさ、今さっきコンビニ行ったら一台の車が止まっていたんだ。その車の中にはカップルがいてさ、イチャついてんの」
「えっ、そんなことで?」
「話を最後まで聞けよ!!その中にいたカップルが知り合いぽかったの!!」
「はぁ、そうですか…」(こりゃ、重傷だ。被害妄想がMAXだね)
コバチはいい終わるとパソコンの前に座りうなだれる。
「もう、どうでもいいや、地球なんかなくなればいいのに…」
「コ、コバチさん!何もそんなに落ち込まなくても…」
「脳内のお前が慰めるなって言ってんだろ!!」
「あっ、ゴメン」
ビオランテコバチの怒鳴り声に落ち込んた。
「あぁ、なんで俺生きてんだろ…。もう、終わりにしたぃいぃいいぃ」
コバチさん…」
コバチはパソコンを立ち上げ起動を待った。
「こんな時こそ、ブログ書こう。ブログを可笑しく書いて現実逃避しよ」
ビオランテはそんなコバチを哀れみながら囁いた。
「ネガティブすぎ、なんにも解決してないじゃん…」
「なんか言ったかっ!」
「えっ、何にも言ってないよ」
コバチは薄ら笑いを浮かべながらキーボードをカタカタ打ち始めた。
ビオランテは恐る恐るコバチに話し掛ける
コバチさん?コバチさんならすぐに彼女出来るよ。ほら、コバチさんて女の子と話さないじゃん♪喋り上手なんだら話せばすぐに彼女出来るよ」
「………」
コバチはコブシをキーボードに叩きつけまた怒鳴る。
ビオランテぇ…。てめぇ、まだ分かってないようだなぁ…。俺は彼女が欲しいけど、女なんか信じられないから…あんなすぐに態度変えてヘラヘラ笑うバカ……い、いらねーんだよ!!」
コバチさん……」(何言ってんだ?コイツ…)
コバチはおもむろに立ち上がりドアを開ける。
「外に出ろ!」
「えっ、なんで?」
「てめぇには、大人気ないけど、コブシで教えてやる」
「一応、脳内彼女である女の子の私に暴力振るうの?」
「関係ない!コブシで語ってやるぜ!!」
コバチは誇らしげに笑った。
二人は庭に出る。大きな月が西の空に輝く。
「おっしゃー!」
「マジでやるの?」




──さらに1時間後。
「ビ、ビオランテ…なんで……」
目の周りに青タンを作り、痣だらけのコバチが庭の真ん中に倒れる。
「あっ、言ってなかった?最近ボクシング漫画読んでいるんだ」
ビオランテはそう言うと一冊の漫画本を取り出した。
「そんなぁ…。漫画読んだだけでボクシング出来るかよぉ……うっ、ぐふ……」
コバチは息切れた。
「あっ、虎の門見なくちゃ!」
ビオランテはいそいそと家に入っていく。
庭にはコバチが一人横たわるのだった。
「たとえれば月……」



そんな深夜三時の日曜日。

シュガー 1 (アッパーズKC)

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