クエッションNo.1

いつもなくコバチは神妙なおも持ちでビオランテがいる部屋に出向いた。
ビオランテ、いる?」ドアはビオランテの返事とともにゆっくり開く。出てきたビオランテコバチの浮かない顔を見ると笑顔を曇らせた。
コバチさん。今日はどうしたの?」
「えっ、あぁ……ちょっと相談があるんだ」
「そうなんだ。とにかくこんな所じゃなんだから、あがってよ。」
ビオランテの言葉を聞くとコバチは申し訳なさそうに部屋に上がった。
ベッドに腰掛けるとビオランテ熱いお茶をマグカップに入れて持ってきた。
「ごめん。コーヒー切らせてるの、お茶だけど飲んで落ち着いて」
「あぁ、別に。ありがとう」
コバチはマグカップを受け取ると両手でしっかりと握りゆっくり口をつけた。ビオランテは机の横に置かれていた木製の椅子をコバチの前に移動させると椅子に座りお茶を飲む。
部屋の中は壁の時計がカチカチカチと時を進める音だけが響く。
そんな沈黙を破ったのはビオランテからだった。
「ねぇ、コバチさん。相談って何?」
「えっ、あぁ…。それがね、ある友人が…。来年、就職するんだけど、どうやら自分の好きな事を犠牲にして世間体とかお金とか、そんな理由を作ってしたくもない仕事に就職らしいんだけど、これってどう思う?」
ビオランテは「そっかぁ…」なんて気の抜けた声を出すと遠くを見つめた。
「アイツ、音楽真剣にやっていたのに…。あんな事言うなんて、それじゃあ、ちょっと尊敬していた俺がバカみたいじゃん」
コバチは悔しそうに囁く
「でも、その人が選んだ事ならコバチさんがどうこう言うのはお門違いなんじゃない?」
「わかってるよ。でも、アイツ苦しそうだったんだ。アイツ多分本当はあんな仕事やりたくないはずなんだ」
ビオランテはそっとコバチの横に座るとコバチの背中を撫でた。
「そっか。コバチさんはその人と自分を重ね合わせていたんでしょ。やりたい事を犠牲にして社会に出るその人と何もやる気が出ないで社会を恐がる自分を……」
コバチの目から涙がこぼれ、太ももに落ちる。
「ち、違う」
「いいの。大人になるって事は何かを諦めることなのよ。なんでも出来た子供の頃を抜け出して、生きるために手に持ったモノだけで戦うことなの」
ビオランテ…」
「諦めるの…。その人はきっとそういった覚悟をして選んだのよ。コバチさん、友達だったら応援してあげなよ」
コバチは目から流れる涙を手のひらで拭うと立ち上がった。
「そうだな。アイツが選んだ道だから俺、応援するわ」
コバチはへたくそな笑顔を作ってビオランテを見る。ビオランテもそんなコバチに微笑み返した。
「そうよ。がんばってコバチさん」
「うん。ありがとう。じゃ、俺ちょっと出掛けてくる」
「うん。気を付けてね」
ビオランテは部屋を出ていくコバチに軽く手を振り見送った。


――原付のエンジン音が遠退いていく。
部屋に一人になったビオランテコバチの使ったまだ温もりの残るマグカップを持つと台所に向かった。
洗剤をスポンジに付けてマグカップを洗う。
「そうよ。コバチさん、いつか大人にならなくちゃダメなのよ。いつまでもこんな生活続かないのよ。そう、私ともいつか別れなくちゃ……」
窓の外で夜風が強く吹きつける。ビオランテは明日晴れることを祈った。


そんな感じの夜でした。


P.S夕日って切ないね。