熊の場所

熊の場所』を読了。
今回は舞城王太郎初短編集でした。(みんな元気。は2回目)
てことで、個別に紹介。(もちネタバレ含む)


熊の場所
あらすじ:クラスメイトのまー君の鞄から猫のしっぽを見つけた僕は、猫殺しをするまー君に興味を持ち、まー君と接触する。
感想:本文で言いたい事は実は父がアメリカで熊にあった話に全て含まれていると思う。
人は大きな恐怖に出会った時、その恐怖の元に戻らなくてはいない。戻ってその恐怖の元と対峙、解析して自分がどうしてこれに恐怖したのか知らなくては。もしその場から逃げてしまったら一生その恐怖に怯える事になる。なんて、話なんだけど。
まー君が最後に引越し、今暁町から東京に行くことになる。東京の何処かは書かれていないが。調布に行き、まー君は調布でも猫を殺したと仮定する。すると、みんな元気に収録されているスクールアタックシンドローム内で主人公の息子が公園で猫の死骸を見つけて自分が殺した言うシーンの猫を殺した者がまー君に思われて仕方ない。舞城ワールドではしばしば、このように今暁町と調布がリンクするってファンサイトに載っていたけど、なんだか面白い。
とにかく、みんな恐怖の元と戦え!!俺は今逃げているけど……。



『バット男』
あらすじ:調布に出現するバット男。彼は超人的能力も無ければバットモービルにも乗っていない。ただ、気分晴らしの町内でバットを振り回すホームレス。そんな、バット男がある日殺される。
感想:上司に怒られた男が家で奥さんに暴力を振る。奥さんの悲しみを癒そうとする息子はその不条理な暴力に憤りを感じて、クラスの誰かに喧嘩を売る。彼に殴られた力のない少年は、その怒りを今度は公園にいるバット男に振るう。
世界のシステム。弱者からより弱者への力の流れを表したこの作品。主人公の青年はそんなバット男を唯一恐れた存在だった。自分は彼のような人生を送りたくない。弱者の捌け口となり狂人に落ちぶれたくない。と必死に勉強に精を出し大学進学を目標に頑張る青年だった。ただ、彼の友人大賀と梶原が出来ちゃった結婚をして、二人の大きすぎる愛ゆえのすれ違いを見続けるうちに彼らの元に死んだはずのバット男が忍び寄ってくるような恐怖を感じて……。読み終わったのはたしか昨日の朝だった。誰もが暴力を嫌うのに何故暴力を振るうのか寂しくなった。綺麗事だけど全ての人間がお互いを自分のように思いやれば世界はもっともっと素晴らしくなるのにどうしてすれ違ってしまうのだろう。と考えた。
プラネテスに出てくるレティクル星人のようにテレパシー器官が内蔵されていたらいいのに。でも、もしあったら芸術なんて存在しないのかな?



『ピコーン!』
あらすじ:元族上がりの赤星哲也と同棲する主人公智与子は、哲也をまっとうな人間にしようと考慮しながらも、自分の人生をグレードアップする為に大検を受けようかと考え中。哲也にその事を打ち明けると百万回のフェラチオで許すと言われて……。
感想:哲也が次第に真面目になり仕事を見つけ休み無く労働をこなし、智与子も大検に向けて猛勉強をする。それが些細なバカの不祥事によって裂かれてしまう。バカの理由も本当に下らない理由で、このような存在が智与子の夢を砕いたと思うとやるせなくなってしまった。タイトルの『ピコーン!』は言葉通りに智与子が何かアイデアを思いうかべた時に発する音。(漫画でいう電球の光)
SWWEETを連載中の漫画家青山景がこれを漫画化したらしいけど、まだ単行本収録はされていないらしい。収録されたイッキももう売ってない。ぐすん。



総合感想:舞城王太郎作品に頻繁に登場するテーマで、『敗者復活戦』というものがある。これは、ピコーン!に於ける智与子が大検を受けるように、我が家のトトロで主人公が28になって脳外科大学受験を始めるように、夜中井戸がやってくるで姉が引きこもりから脱却するように、熊の場所で父が一度逃げた熊と再戦するように、山ん中の獅見朋成雄で最後に全てを捨ててやり直そうと誓うようにetc.
一回負けたり逃げたりしたモノに再挑戦する姿や、世間的には年齢を理由に無理だと諦めたり、今の人生に妥協する所を果敢に戦う姿がよく描かれる。
河合隼雄さんや町田康さんが人生は何度も再挑戦できる敗者復活戦が多い世界にしたいといっていた。日本は昔の受験戦争の名残か、一度負けたりそこで終わりという風潮がまだあると思う。もちろん、その風潮なんて昔に比べたら薄くて、母の勤める病院にも元サラリーマン30歳で研修医なんて人もいるらしいから改善されていると感じる。母曰く、前職がある医者の方が高校、大学から医者に一方通行で来た者より許容量が大きくていい仕事をするとのこと。
平均寿命が伸び続けるのだから人生何度だってやり直せる世界がいい。一度の失敗で死ぬ奴がいない世界が出来ればなお良い。

熊の場所 (講談社ノベルス)

熊の場所 (講談社ノベルス)