フェチに捧ぐ歌。

世界にはいろいろなフェチがいるんだなぁ。
と、感じる今日この頃。
去年、イカれて書いた眼帯話に急にコメントが書かれ、生粋の眼帯フェチの方から、「是非続編を書いてくれ」との事。
「求めよ、ならば与えん」って、誰のセリフ?聖書の一節だったような気もするけど、もしかしたら単なるARMSの間違った覚え方かもしれんから、よう分からんけど。とにかく、誰かが求めるなら与えてあげよう。いや、こんな屑に求めるならなんだってあげるよ。命からケツ毛まで。

てことで、改訂版。

僕の村では、成人つまりは二十歳に近づくと男女問わずに片目を無くした。
それが僕の村での成人の証だった。誰もが時が来れば受けるルールだった。
祖父や祖母の年寄組は、無くなった目は山の中腹に建てられた『独眼神社』に祭られている御神体が頂いて下さったと言っていた。
確かにあの神社の御神体の仏像は右目に大きな傷を持っている。
本当に御神体が目を奪いに夜な夜なうろついているのか分からない。ただ、二十歳前後に村民は等しく目玉を無くす。経験者に聞くと、朝起きると蒲団がじっとり濡れていて、「あれ、なんだか目が見づらいな?」なんて気になって鏡を覗くと昨日まであった目玉が無くなりそこには大きな黒い穴が空いているとの事だ。痛みはない。ただ昨日と違う視界の狭さに違和感を感じるだけ。原因は分からない。昔、外国の偉い教授が調査に来たが、何の成果も得れず帰ってしまったらしい。

僕の家はそんな隻眼の人に対して、眼帯やアイパッチ、義眼を売りつける眼帯屋として長年生計を経てている老舗の眼帯屋だ。
僕(16)は病弱な母の代わりに高校を中退してこの店の店主代理を勤めさせてもらっている。
兄貴分であるアイパッチデザイナーの大和さん(25)と僕はこの陸の孤島で目玉を無くして恐怖に怯えるお客様に親切丁寧に接客をしている。
なんせ、村の中で唯一の眼帯屋で、二十歳を越えれば村中の人なら必ずがお世話になる店だから僕は村の中じゃそこそこ有名人だ。
蝉が煩く鳴く夕方で、遠雷が響き店じまいをしようとしていたそんなある日、近所に住む憧れのヨーコ先輩(19)が来店した。
もうすぐ、目が無くなるからオーダーメイドでアイパッチを作って欲しいと……。
ヨーコ先輩はアメリカ人のハーフでとても綺麗な碧眼の持ち主だった。生まれも確かこの村ではなかったと思う。僕が10歳の時、何処かから引っ越してきた。たぶんアメリカだと思う。その透きとおる瞳の青さに僕は出会った時から恋焦がれていた。

その瞳を守る為に僕は御神体を壊そうと思う。
これでこの村のルールが崩壊出来るとは確信していない。
何も変らず、明日先輩が目を無くしてフラフラして店に顔を出すかもしれない。
でも、ここで何かしなくちゃ。
僕がヨーコ先輩に対して何かしなくちゃ、心の置き場所を、言い訳を作らなくちゃ。


神社の木製の戸を斧で叩き割り中へ闖入する。
奥の一段上がった段に鎮座する木製の仏像の首目掛けてを斧を振り下ろし粉砕。
最後に周囲にガソリンを撒いて火をつけて逃げた。


翌朝、僕は何くわぬ顔で起きる。
大和さんが昨日の山火事についていろいろと教えてくれた。
そして神社が全焼した事も、幸い負傷者が出なかった事も、山火事は放火の線が濃く犯人は未だに見つかっていない事も。
朝、駐在所の警官が訪れてからは、昨日と変らずいつも通りに一日を終えようとした夕方。
ヨーコ先輩がやって来た。
顔を抑えながら、頭痛を堪えているようにフラフラしながら、
僕と大和さんが駆け寄ると、右目が無くある筈の穴から赤い涙を流して……。


クライアントの要望に答えて、先輩も目を無くす設定にしましたよ。