東京厠ボックス

「昨日ハローワークに出向くと決心した俺だが、この雨模様だと明日でもいいかな?」
俺はそう言ってCSI2を観た。仕方ない、雨が降っているのだ。雨が降ればバイク乗りのテンションが落ちるものだ。ロウテンションでハローワークなんて攻略難度の高いダンジョンへ行く事は出来ないのだ。雨に濡れた身体であの門をくぐれば笑い者にされてしまうのだ。俺はとっとと諦めた。しかし、脳内彼女であるビオは真逆だった。
「……こ、kobachiさん。そんな事を言っていたら何時までも就職活動を再開しないじゃない。さっき観た細木和子さんの占いじゃ、火星人(−)であるkobachiさんの今日の対人運最高なのよ。きっと良い出会いがあるわ。今日こそはなんとしてもハローワークに行って頂戴!!」
俺は飽き飽きして、アメリカ人のように肩をすくめて溜息をついた。何も分かっていない。雨降りにあの後輪がツルツルのタイヤで出かけたならばきっと行く途中にスリップしてクラッシュが見えているのに……。ビオのテンションに反比例するように俺のテンションは下がり、俺はとうとうベッドに横になり早めの昼寝をすることにした。
目を瞑って、数分後。俺の身体を揺するビオに起こされた。
「なに?もう今日は雨降りだから寝かせろよ。明日行くって行ってるんだろ!?」
「そうじゃないの。晴れたの。私の祈りが通じたんだわ、神様が言っているのよ。あなたは今日ハローワークに行きなさいって」
ビオの戯言に眠い目を擦りながらカーテンを開けると、陽が燦々と降り注ぎ俺の目を細めました。さっきの雨天とは打って変わった青空。夢だと思いたかったです。
「マジかよ……」
「ねっ、だから準備して、ハローワーク行こうよ」
「えっ、あぁ……こうなったら行くしかないな。いや行かない理由が無くなった」
俺は渋々ながら着替え準備万端に背嚢を背負い部屋を出ました。
部屋を出て一歩目、急に内臓の調子が悪くなり厠へ。
「kobachiさん大丈夫。過敏性大腸症候群?」
木製のドアの向こうでビオが心配そうな声を出しながら尋ねてきました。
「いや、なんだか腹が痛くなって、ちょっと待ってて」
しかし、全く腹の痛みは治まらず。俺はきっとこの痛みは俺の身体がハローワークに向かう事に拒否をしているのだと思慮しました。脳はもうこの切羽詰った無一文状態に危機を感じ労働することを容認・推進しているものの、身体はきっと行きたくない所に無理に出向く必要はないと抵抗をしているのだろうと。俺はトイレから出る事が無性に嫌になりました。
「ビオ、今日は行く事やめようか?」
ビオは力任せに木製のドアをドンと叩く。
「ワガママもいい加減にしてください」
「…………」
「自分の感情でまた我が家の資産を食い潰すつもりですか?この家はkobachiさんだけの私物じゃないんです。そんなにハローワークが怖いんですか?」
「…………」
「とっとと働けよkobachi!!!みんなのため、家族のためとは言いませんよ。私は普通に戻りたいんですよ!やる気だのトラウマだのはったりはたくさんです。結局は逃げているだけじゃないですか?そんな奴が人を楽しめる事なんて出来るわけない……お願いします、行って下さい」
「……(負けを認めれば少しは前に進めるかな)……」
俺は厠を出ると洗面所で手を洗い、家を出るとバイクに乗り込みハローワークに向かった。