本谷有希子文学大全集〜江利子と絶対〜

本谷有希子の処女作「本谷有希子文学大全集〜江利子と絶対〜」を読了
処女作にて「文学大全集」と銘打つ辺りがぶっ飛んでるよね。これで小説を書かなければ確かに全集なんだけど、この後、数冊発行しているし………。
とにかく、三本の短編集なので個別に感想。

江利子と絶対』
表題作である『江利子と絶対』
あらすじ:前向きに引き篭もる江利子とその江利子に拾われた「江利子を絶対に裏切らない」のと言う意味が込められた「絶対」という名の犬。そんな二人?一人と一匹を見守る姉の視点で描かれた作品。

感想:引き篭もり小説というのは意外に多く存在していて、上記の舞城王太郎も「スクールアタック・シンドローム」という作品にて引き篭もりの親父とイジメに遭っている息子の話を書いている。まぁ、このブログ名から、引き合いに出すとしたらやっぱり「NHKにようこそ」だと思うのでそれと比較して感想。「NHKにようこそ」が終始一貫して自己を見詰めてじぶんのダメさを呪う作品だとすれば、この作品はその逆を行き同じゴールに着いたような作品である。江利子は文中、一度たりともネガティブにならない。常に前向きに世界との繋がりを諦めてしまっている。私が世界に合わないのはきっと世界がおかしいんだわ。と言いたげな飄々とした態度を持ち、犬の「絶対」に世界の怖さを教える。(後半では電車事故から自分の考えを改めるけどさ)「NHKにようこそ」が最後に仮想敵「NHK」(世界)に向けて突貫攻撃を加えるに対し、江利子は、自分の希望を砕いた世界に攻撃を加える。こう書くと、ようは同じようにテロったんだろ?と思われるが、前者は自殺行為であり、後者は他殺行為なのだ。感情が違う。諦めと怒り。
これの面白い所は、両者とも攻撃は失敗し世界は何も変わらない所である。
何も無くなった所で終る。いや、この両作品、何も始まっていなかったとも言えるけどさ。
作中に出る『エリのキレイな気持ち返せよ。早く返せ』の台詞は秀逸。もう最高。それだけで1600円の価値あり。

『生垣の女』
あらすじ:生垣に隠れて、日夜男の帰りを待つ女と、そんな女を怖がりながらちょっと興味を抱く若ハゲの男の最低の恋愛の話。

感想:とにかくグロい。描写もそうだが、内容もグロい。男が余りに終っている設定と女が余りにイカれている設定に爆笑が止まらなくなり、女の「お前はもう死んでもいいような奴だ。もちろん私も。だからお互いにもう死んでしまいたくなるような最悪の恋愛をしよう」と言う辺りで腹が捩れそうになった女の猫イジメには正直憤りを感じたが、女に出て行かれて置き去りにされた男の頭に残る数本の毛を毟りながら叫ぶ「置いて行かないでくれ、ほら俺こんなに髪の毛抜いちゃってるし、こんなにダメになっているのにーー」辺りがもう悲しくって面白くって堪らない。


『暗狩』
あらすじ:窓が一つもない屋敷に忍び込んだ小学生三人がそこに住む殺人鬼から逃げる話。

感想:この前観た「テキサスチェーンソー」を思い出しながら読むと、あまりに殺人鬼が正気な事にちょっとがっくりしたが、この作品は殺人鬼との攻防を楽しむものではなく、その殺人鬼に襲われるという危機的状況で、少年たちがどのように成長するかがキーポイントだったんだね。そうでもしなければ、乙一の「SEVENROOM」と大差が無い。もっとも、その攻防から見える少年達の醜い感情や争いもキーポイント。でも、俺は序盤から見えたあの伏線がずっと気になっていて、読みながらも「あのアイテムを使えばここから出られるじゃん」とずっと波多野のポケットに忍ばせた物に注目していて主人公の自己との向き合うまでの行に集中できなかった。



総評:本の帯に『面白くなくちゃ文学じゃない』と書かれていて、まるでめちゃイケの「楽しくなければバラエティでは無い」みたいだなぁ。と思ったが、読み終えて思うことは、本谷有希子は面白い。「ここの表現がさぁ」とか「こいつの設定が……」「人物描写に……」なんて評論家ぶった事考えんと、単に何も考えんと楽しめばいいと思うよ。この人の作品ってそれだけのスピード感や台詞回しがあるし。
とにかく、小説とか難しそうで読みたくないなぁ。と思う人は、是非『江利子と絶対』だけでも読んでみてきっと小説の面白さが分かると思うし。


江利子と絶対

江利子と絶対

P.S
この作品って、本谷有希子が23歳の時に書いた作品らしい。
ちなみに、俺は今23歳。
…………きっとこの人は本物なのだろうなぁ。俺は無理