夢で逢いましょう

夢を見た。


気付くと渓谷に挟まれた河原に僕は立っていた。
謙虚そうに小さく聞こえる川の流れる音と蝉の声、僕は立ち尽くし辺りを見渡した。やはり見覚えがない。


一瞬で世界は崩壊し、再構築される。


古い日本家屋で寝転がっていた。僕を揺する手がある。
起き上がると緑色の髪の毛をして黒目を赤く輝かせる少女が微笑んでいた。洋服は僕の通っていた中学のジャージだ。
アニメや漫画では髪の毛が赤だったり緑だったりするのは極々普通に見かけるが、実際に(夢のだから実際なわけではないが)生々しい身体とそこらを歩いていそうな顔つきの彼女に不釣合いな髪の色、不自然な髪の色。気持ち悪さを感じた。僕は目を伏せた。
その仕草を彼女は戸惑い、「へへっ」と母親に悪戯を見つけられた子供のような声で笑った。
彼女は僕と距離をとると壁を背に体育座りをした。距離をとられたことを寂しく思う僕の心はなんだ?


また、世界は崩壊した。そして何も無かったように再構築される。


結婚式場で僕は酒を煽っていた。ここが何処の結婚式場で誰の結婚式か分からない。ただ、なんとなく半年前の妹の結婚式に似ていると思った。しかし、現実の結婚式とは確実に一線を介していて、夢とわかる理由があった。それは僕以外、新郎新婦を含めて会場内の全ての人間の顔が墨で塗られたように真っ黒だったからだ。顔の輪郭だけを残して全ての人間の顔が黒かった。その黒い人間はさも普通のように横の席の者やお酌を注ぎに来た者と歓談をしている。
薄気味悪かったが、この場から逃げてはいけないという気持ちから僕は横に座っていた男(体格と服装から予想)に話しかけてみた。近くで見ると黒いと思われたには、いくつかの小さな光が輝いており、現すなら宇宙のようだった。もしかしたら顔の形にその世界に穴が開いているのではないかと手を入れない願望に包まれたが、僕が手を伸ばすよりも早く男は喋り出した。
「めでたい、めでたい」
男は僕の背中を数度叩き、僕の空いたグラスにビールを注いだ。
男はかなり酔っていた様で、注ぐ手元はふらつきグラスからビールが溢れ、真紅のカーペットに染みを作る。
僕は手に付いたビールを洗おうと席を立った。従業員に指示されるままに扉から出ると、そこはさっきの緑髪の少女がいた日本家屋だった。階段の中央に立つ僕は、何時底が抜けてもおかしくないボロボロの階段をゆっくり一足ずつ降りる。踏み込むたびにミシッという音が鳴る。


一階に降りた僕の脳に情報が書き込まれて全て理解する。その瞬間、夢だという諦観や客観は吹き飛び、この世界の一員になる。
少女は、まぁ少女といって高校生くらいの女の子だが、彼女は右目の上に大きな絆創膏を貼り付け僕に駆け寄ってくる。
理由も分かる、この世界の一員になった僕はこの世界で起きている現在も起きた因子も過去も知っている。
彼女は声を出さないで泣いている。
田舎の村は閉鎖的だ。異分子が嫌いなのだ。トラブルが困るのだ。
田舎が求めるものは平穏、普通、サザエさんのような生活だ。
彼女のような人として異端な存在が困るのだ、そこから自分の生活が崩壊する事を恐れる。
彼女は髪の事も目の色も諦めているが、村人は諦めていない。体育教師の精神論のように「努力すればどうにかなる」を突き出してくる。
僕は彼女を宥めて、部屋から絶対に出ないようにいうと家を出た。
玄関先の郵便受けの横に張り紙があった。張り紙には
『こどもがいます。石を投げないでください』
張り紙を破り捨てようと手を延ばした瞬間、


世界が崩壊する。張り紙を掴めないまま僕はどこかに飛ばされる。何も掴めない。


たどり着いた場所は、夢の始まりの河原だった。
今度は水の音も蝉の声もしない。
ただ川上から水が赤く染まっていった。






はい、病気!!
ここで「くそぉ、俺はなんて夢を見てんだ。フロイト先生も爆笑だぜ」と某小説の主人公のように頭抱えて言えれば、翌日には好きな女の子がポニーテールで待っているでしょうが。
そんな余裕は無く、出た声は
「気持ち悪い」
と寝汗で濡れたTシャツで水を飲みに行く事が精一杯でしたよ。