トラウマを探る旅に出よう

世には「ギャルゲ・エロゲ」と呼ばれるジャンルのゲームが存在する。登場するキャラクターとの会話やそこから派生する選択肢によって、そのキャラクターとの親密度を上げ、仲良くなったり、彼氏彼女という関係になったり、Aとか、Bとか、もしくはZ辺りまで行うゲームである。


私もご多望に漏れず、過去にそのようなゲームをプレイしたことがある。もちろん、全年齢対象のゲームである。当時18歳未満の私が性表現を伴ったゲームを出来るわけがないではないか! 当たり前である。もう一度言おう。健全なゲームである。起動ハードがパソコンであったが…。
それは、まぁ置いておこう。
内容は何の変哲もない学園生活を行いながら、通学や放課後・部活の時間を使って目的の美少女と会話をして親密度を上げる事により、彼女特有のイベントが発生して彼女との微笑ましいエンディングに向かう。よくよくある内容のゲームだった。(思えば、プレイ時に学生の少年が何を虚しく、仮想の学園生活をエンジョイしていたのかは分からないが。)
彼女は正ヒロインの位置に存在する美少女で、髪の色が現実ではありえないアマゾンに住む毒ガエルのような色をしていた。しかし、その事には劇中誰も突っ込まず、彼女以外にも主人公に近づいてくる美少女たちはみな奇特な色をしていたのでその世界のブームだと思い込んだ。
そして、会話が始まる。
彼女達はどう考えても平凡な一男子学生で現実にいたらなんら面白みのない主人公に関わりを持とうと必死に付き纏っていた。
ともあれ、劇中の主人公は無条件でモテた。「この選択肢なら、無難で大抵は好印象を持つだろう」と思われる選択肢を選ぶと、予想通りに彼女達は「ありがとう」とか「嬉しい」とかいったグッドリアクションを取った。そして、時折頬を染めた。土日には必ず美少女からのお誘いがあったり、お誘いを誘導するようなシナリオに話が進んだ。全てがうまく行き過ぎていた。
現実の私はそのギャップに口をあんぐり開けて呆れた。何度「んな、ばかな」とタモリさんばりにいった事だろう。プレイ当時の私は彼女っぽい存在がいたので、全くモテていない存在ではなかったが、あまりのご都合の良さに、逆に現実もこのように簡単なモノではないだろうかと彼女っぽい存在に劇を倣ったコメントをしてみた。*1まぁ、彼女っぽい存在はやはり三次元で高性能チップ内蔵の脳みそを有していたので失敗には終わったが。
それからは、「所詮二次元」と鼻で笑いながらプレイを再開した。
てめーら、のような薄っぺらな存在はこうゆう選択肢が一番喜ぶんだろ?!
お前らがいくら「ほんとぅ、嬉しぃ♪」と喜んだって、こちとら「計画通り」だよ!! バーか!
あぁ、こうゆう言葉に彼女のいない童貞は喜ぶんだろうなぁ……俺には通じないがな!!*2
ディスプレイ上で起こる喜劇も悲劇も、そこで発せられる言葉も全てを私はあざ笑った。
心の何処かに穴が開いたような気持ちになりながら、ゲームを始めた理由を何処かに置き忘れて。置き忘れた事を知っているくせに拾いにも行かず、遺失物届けも出さずに、無様な自分をゲームにぶつけた。
ゲーム中の話は進み、クリアー対象の彼女が突如学校に来なくなった。クラスメイトやその他美少女が心配するコメントを言っていた。
私は「うさんくせぇ、これが現実だったら誰も心配しないはずだ。この偽善者どもが」と思いながらも、青少年の主人公は生真面目な性格で周りの意見に押されて放課後に彼女の家に行かされる。現実の私はその時、鼻でも穿りながら全く気にしてなかった。
そして、話が進む。
彼女は遺伝子の病気で入院するはめになる。
現実の私はもちろん全く意に介していない顔でマウスをクイックした。
クラスメイトの薦めで彼女の介抱にあたる主人公と、毎日のように来てくれる主人公に戸惑いながらも喜んでくれる美少女。
今思えば、それは単なる「セカチュー」なのだが、病人を馬鹿にするほど精神が腐っていなかった私は観る度に悪化する彼女と献身的な対応をする主人公に心が揺れた。
最終的に、彼女は病魔に打ち勝ち、主人公とのラブラブ学園生活に戻る。
彼女のエンディングを終えた私は「よかったやん。えー話やん」と島田慎介ばりのコメントを言いながらニヤニヤしいた。
エンディングを終えてオープニングに戻る瞬間、シーンチェンジでブラックアウトになるディスプレイ。
そして、そこに移りこむ私のニヤニヤ顔。
最高に気持ち悪かった。



そのニヤニヤ顔が脳裏から離れない為に私はずっと「ギャルゲ・エロゲ」を避けているのだと思われます。








追記1
図書館で借りた本を読まずに、ずっと本谷有希子さんの「乱暴と待機」を読んでいますが、三分の二まで読み、奈々瀬ちゃんの過去にショックを隠せません。

*1:つまりは「神のみぞ知るセカイ

*2:注意:当時の私は彼女のいない童貞です