小松響子aka.トランポリンガール 7(最終回)

作者さえも長期間ほっとらかしにしてしまった為に内容を忘れてしまったあらすじ:
人外の跳躍力を持つ女子高生、小松響子。
彼女はその能力がゆえに人に疎まわれ嫌われ、母親は去っていった。政府から監視・管理人として派遣された久保井と父親の三人で暮らしていたが。ある日、久保井の父への愛に気付き、また母のとの再会によって跳躍力を封印する。そんな響子は墓場で出逢った老婆から愛を教わり、友達のマドカから宅配便の仕事を薦められる。

伝書鳩
ハトの帰巣本能を利用した長距離間の通信手段。
さながらハトはただ家に帰るだけなのだが結果的に人と人との綱渡しを行っている。


インカムから携帯の着信を知らせる音が鳴る。
私は上空40メートルの場所から、適当な駐車場を見つけて降り立つ。
「もしもし、響子ちゃん?」
「はいはい。なんでしょう?」
「なんでしょう。じゃないでしょ!! 今何処にいるの?!」
「えーと、駐車場?」
「手紙は?!」
「いや、ちょっと住所が分からなくて……ごめん」
「もー、分からなかったら電話して頂戴」
「はい、すいません」
「今からメールでデータ送るから、受け取ったら電話してね」
久保井さんからの電話は一方的に切れて、久保井さんの激昂状態の高さを表していた。
バックからノートパソコンを取り出し、立ち上がるまでしばし待つ。


全てが上手くいった訳ではないが、私なりに行動を起こし結果、何もしない状態より幾分マシな状態に持っていくことが出来た。
マドカちゃんと別れたあの日、私の中で大きな意思の存在を、愛という言葉にすると胡散臭くなって、照れ臭くなってしまう存在を確信できたあの日。私は実家に戻って、久保井さんと対峙した。そして、抱き締めた。久保井さんの背骨を折ってしまうような力で、絶対に離さない事を体現するように抱き締めた。久保井さんは、「痛い」とか「なに?」とか驚いていたけど私は聞こえないフリをして抱き締めた。久保井さん、私は久保井さんを失う事は凄く嫌だ。私にとって久保井さんはとてもとても大事なもので、出来るなら一生一緒にいたいと思っているから。大丈夫、そう思っていてくれてるのは、私だけじゃなくてお父さんもそう思っている。だから、私とお父さんの為に一緒にいて欲しい。
久保井さんは何も言わなかったが、私の頭を子猫を撫でるように優しく撫でるその手に、全ての答えが込められているように思われた。照れ臭くて胡散臭い10万の言葉を使うよりもきっとその撫でる手がきっと正しい言葉なんだと思う。
その日、私は久保井さんとお父さんと夕飯を済ませ、久保井さんと一緒にお風呂に入り、同じ布団で寝た。久保井さんはいつもと変わらない様子だったが、会話の合間に何度も私の頭を撫でてくれた。
その次の日は、ママの仕事場に出向き、昨日と同じように出会い頭抱き締めた。ママは周りの目を気にして恥ずかしそうにして私を振り解こうとしたが、私の強固な抱き締めに観念して呆れかえっていた。
帰り際にママは、「来るなら来ると連絡くらい入れなさい。それが社会人としての常識よ。だから、あなたはダメなのよ」といつもの文句を言いながら、私を会社の玄関先まで見送ってくれた。跳びたった私の後姿に手を振るママを見た時、ママをどうしようもなく可愛く見えて、戻ってまた抱き締めてあげたくて堪らない衝動に駆られたがぐっと堪え、次回の楽しみにとって置く事にした。
ジャンプを繰り返して、マドカちゃんの家に行って、マドカちゃんを抱き締めたり、幼馴染の彼に逢って、抱き締めて「俺、二股はちょっと……」とか誤解されたりと、私は町内、いや市内、県内を飛びまわり、行く先で抱き締めて回った。
日沈み、黄昏を背に家に帰ると久保井さんが嬉しそうに私に違法飛行の始末書の束を渡してくれた。なんだか………。
始末書を書きながら、キッチンで夕飯の準備をする久保井さんにマドカちゃんが考案した『キョコタク』の話を持ちかける。反対されるかと思いきや、久保井さんはノリノリで一週間もしないうちに仕事を辞めて『キョコタク』をはじめる為の、飛行許可や事務所を手配する。
そして、私だけの独占宅配事業が始まる。
自転車も自動車もバイクも、箒も黒猫使わない身体一つの宅配便。さながら現代の飛脚。
小松響子の宅配便。『キョコタク』をよろしくお願いします。




パソコンにメールが届き、私は添付されていた地図の画像と現在点を照らし合わせて、目的地に身体を向けて屈伸をする。
跳ぶ事しか出来ない。
鞄の中で読み手の顔を待っている手紙の為に私はただ跳ぶ事しか出来ない。
でも私の一蹴りが人と人が繋がるなら何度だって跳んでみせる。




〈了〉