クロナド

**クラナドファンの方はご遠慮ください**



「クロナド」とは、大ヒットアニメ「クラナド」を模したAVである。
既存アニメのパロディAVを作る事で御馴染みのTMA(トータル・メディア・エージェンシー)が2008年に製作したAVであり、エロシーンよりもパロディ部分に力を入れたAVの定義から外れたものである。


感想:「feta」や「ひぐらしのなく頃に」、「らき☆すた」、「涼宮ハルヒの憂鬱・消失」を今まで作ってきただけに、近作の「クロナド」も原作アニメに対する再現率の高さは目に見張るものがあった。前作の「すた☆らき」にて、OP製作において映像にCG処理を入れていたが、今作ではテニス対決のシーンにて、その迫力を出す為背景を全てCGでまかなっていた。(たんにテニス場を借りれなかっただけかもしれないが)
技術に関しては、私自身もそれほど詳しくないのでこれまでにするが。
私がなにゆえに、AVの感想を書くに至ったかとすれば、それは真面目に面白く何かを表現しようとするスタッフと演者の姿に感動を覚えたからである。


出だしで主人公である岡先(岡崎じゃないよ)は、原作そのままにこう言う。

「この町は嫌いだ。忘れたい思い出が染み付いた場所だから」  
「毎日学校に通い友達とだべり、帰りたくもない家に帰る。こうしていて、いつか何かが変わるんだろうか」


と一人呟く。
それは岡崎の台詞でありながら、AV男優として決して世間から全うな扱いをされないポジションに属している岡先(イノッチじゃないよ)の思いの吐露としてあまりにリンクしている。(もちろん、ただの偶然だが)
そして、さなぎ()ちゃんを見つける。
さなぎちゃんもまたAV女優として自信を失していた。キャラ設定の為に着替えた学生服から、呼び起こされた10代の頃の学園生活。何もかもが面白くて、輝いて見えたその季節。
さなぎちゃんは岡先に気付く事も無く過去の自分に向けて喋り始める。

「この学校は好きですか?」
「私は、とってもとっても好きです」
「でも、何もかも変わらずにはいられないです。嬉しいことも悲しいことも全部変わらずにはいられないです。それでもこの場所が好きですか?」


もちろん、これも原作通りの台詞であり、渚ちゃんの言葉である。しかし、さなぎちゃんの失った青春に向けての言葉でも取れる発言である。
そんな二人の出会いから物語が始まる。


物語の内容は原作を軽くなぞる内容なので最早説明のしようも無く、簡潔に纏めれば、さなぎちゃんが演劇部を再建して、文化祭で劇を発表するまでの物語である。(この時点で、AVのストーリーとしてはおかしい)


(いろいろあるが中略)
一ノ瀬ことみっぽい人が、女子レスラーだったが触れずに中略)



二人は部員を集めて、演劇部を再建し文化祭までにこぎつける。
舞台前夜、さなぎちゃんは、自分の持病のせいで両親が演劇を捨てた事を知る。そして、そのショックで当日の幕が上がるが言葉を失い涙を流すさなぎちゃん。
ざわめく観客。
そんな状況にさなぎの父が会場に飛び込み叫ぶ。

「夢を叶えろ! さなぎ!!」
「さなぎ! バカかおめぇは、子どもの夢は親の夢なんだよ! お前が叶えればいいんだ!」
「俺達は、お前が夢を叶えるのを夢見てんだよ!」
「俺達は夢をあきらめたんじゃねぇ!」
「自分達の夢をお前の夢にしたんだ!」
「親ってのはそういうもんなんだよ!家族ってのは、そういうもんなんだよ!!」
「だから、あの日からずっと、パンを焼きながらずっと! 俺達は、それを待ち焦がれて生きてきたんだぞ!」
「ここでお前が挫けたら、俺たちはは落ち込むぞ!!」
「てめぇ……責任重大だぞ! てめぇ! さなえ! いるんだろ! お前もいってやれ!」


上記の文も全く原作と同じ台詞ですが、言葉としては濁声のおっさんが叫んでいるだけなので。喋っている内容も良く聞こえませんし、父がただ怒鳴っているような印象を持つ演技です。アニメ版は観ていませんが、きっと置鮎龍太郎なので、それは聞き取りやすき感情移入しやすい素晴らしい声だったと思われます。
しかし、娘の一大事に駆けつけた男の声は実際どうなるでしょう? きっと息も絶え絶えで、呼吸を荒らしたまま泣いている娘に届くように叫ぶでしょう。
別にアニメ批判ではありません。アニメと現実は別です。
実写だからこそ、この場面での父の演技はリアルに感じました。(不細工なさなぎの母もその不細工さはリアルでした。)


そして居ても経ってもいられなくなった岡先はさなぎの元に駆け寄り叫びます。

「俺達もだぞ! さなぎ!!
「俺や春原(ゴロー)が出来なかったことを、今お前が叶えようとしてくれてるんだ!」
「俺達の挫折した思いも、お前が今! 背負ってるんだよ!!!」


そうなのです。
この時岡先が叫んだ「俺達の挫折した思い」が、AV男優としての悩みや、映像に携わる夢を目指した末に辿り着いたスタッフの「こんなはずじゃなかった」という懊悩や悲しみ。ではないでしょうか?
そんなAV撮影の一シーンながら於いてAV抜きに一つの物語を撮影できる喜びを、舞台に立つさなぎちゃんに現してほしい。そうゆう思いでの言葉ではないでしょうか。私は岡先の目を見開いた演技にその思いを感じました。
そして、その思いを受け取ったさなぎちゃんは、気持ちを落ち着かせて涙を拭い、ざわめく観客にこう言います。


「あなたを、お連れしましょうか? この町の、願いがかなう場所に…」

もちろん、アニメ版は素晴らしいと思います。原作ゲームも同様です。
しかし、大の大人が、それもAV男優とAV女優が演じるクロナドには、大人が故の苦しみが加味されていて、そんなおっさんが叫ぶ「挫折した思い」という言葉には、原作には無い。いや、原作にはありえるはずが無い人生の重みがあったように思います。
これにて、私のクロナドの感想を終えます。