1408号室

あらすじ:泊まった客は1時間以内に死ぬいわく付きの客室に挑戦する小説家崩れの男。その部屋に住み着くものは幽霊ではなく『邪悪』だった。


感想:男同様、部屋に入った俺は、幽霊や超常現象を否定していた。部屋に異変が起きても、それはホテルスタッフの周到な悪戯か、人為的でない出来事は改修されていない部屋だから、今では禁止されているような塗料が使われていて、その塗料の匂いや成分が部屋にいる人間に幻覚や幻聴を齎していると考えていた。
しかし、その部屋が支配人の言う通り、幽霊などではなく邪悪が住むと理解できたのは、男に希望を見せた時だった。
亡くなった娘を登場させた時に、部屋の邪悪さは最高潮に達していた。
何故なら、亡くなった娘に逢える部屋など誰が出たいと思うだろうか……。死別した人間に逢えて、会話や接触が出来る部屋。それはこの世を生きる人間にとって最大級の希望であり、この世を生きる事を放棄させるものである。
だから、亡くなった娘が消し炭になった時、男は悲しんだが観ている俺は少し安心した。
男は部屋に火を放ち、部屋との心中を企む。
なんとか消防士に助けられ、手元に残ったテープレコーダーに吹き込まれていた娘の声に、男は何を観たのだろう。あの部屋での出来事が現実であった証拠だろうか、それとも部屋に勝った充実感、娘の言葉が聞ける喜び。
俺はそのテープを聴いた娘の母の驚きが怖かった。母はきっと娘に逢いに部屋に行く。
部屋は母を招いている。
そう思えて仕方なった。