神様の見方?味方?

今日もこの『中二病島』の悲惨な現状をお伝えしたいと思います。
この島には、老若男女問わず多くの患者が暮らしいます。
その中でもこの島に存在する二大勢力の話をしたいと思います。
僕がその二大勢力を知ったのは、この島に来て友達もいない僕と仲良くしてくれた正常院入鹿(『セイジョウインイルカ』もちろん仮名)さんと昼休みの時間に島の中を巡っていた時でした。正常院入鹿さんは僕よりも二つ三つ年上の女性なのですが、いつも語尾に「だぎゃ」を付け、軽い躁状態中二病レベルの高い女性です。出会った当初も「君がこんなに早く現れるとはね。これもあのプロジェクトのシナリオだぎゃあ?」と訳の分からない言葉を言っている事から同居人のXさん並に重度だと思われます。
島の施設を練り歩いていた時、ふと中庭に集う男性の集まりが目に留まりました。
「あれは、『聖書戦争』の『男子派』だぎゃあ」
「聖書戦争?」
「そうだぎゃ、5年前に男子棟を清掃をしていたとある男が一冊のノートを見つけただぎゃ。そのノートは女性棟に住む女性患者との交際を綴った日記だったぎゃ。それを読んだ人間は誰もがその内容に自分の恋愛と照らし合わせて高揚し、涙し、微笑んだだぎゃ」
「いい話じゃないですか。そのノートが『聖書』というわけですね」
「そうだぎゃ。でも、それから数ヵ月後に女性棟でもノートが発見されたぎゃ」
「女性棟でも?」
「女性棟で見つかったノートも日記になってたぎゃ、それは男性棟に住む男性との恋愛を綴った内容で、その内容に読んだ女性は涙が尽きるまで涙を流したぎゃ」
「女性棟でも『聖書』」
「それからだぎゃ、男性棟に存在する『聖書』と女性棟に存在する『聖書』。どちらが真の『聖書』か争っているだぎゃ」
「正常院入鹿さんはその聖書を読んだことがあるんですか?」
「男子派のモノはコピー本を読んだぎゃ、女性派は原本を読んだけどどちらも同じような内容だったぎゃ」
「男子棟で発見されたノートを女性派が真似たとか……」
「そうゆう意見も男子派にはあるだぎゃね。女性派はそれを断固否定してるだぎゃ、そしてここだけの話だけど、男性棟で発見された『聖書』は紛失しているらしいだぎゃ」
そんな、話をしているうちに、この会話を聞きつけた男子派の一員が寄ってきた。
男は僕らの会話を聞いていたようで、正常院入鹿さんの言葉に付け足すように話し始めた。
「僕ら男子派こそが正統であり、正当であると言えましょう。どこのスイーツ(笑)な日記なんぞを崇め称え、涙するあの馬鹿女どもにも開眼し、僕らに賛同すべきなのです。彼女を失った悲しみと亡き彼女を思いながら過ごす男の心情を綴った『聖書』の後半なんて本当に神作品ですよ。第一……」
男の熱の篭った喋りに心底引いてしまった僕と正常院入鹿さんはその場をゆっくり去ると、今度は物陰から招き手と共に呼ばた。
そこには女性派の女子がおり、思っていたように先ほどの男の言葉に反論した。
「あんたら馬鹿なの? あんなオタクどもと会話して。本当にあいつらキモい。何が神作品よ。私達の『聖書』を盗作なんて言って、本当は私達の『聖書』を真似たのはあいつらなのよ。それを裏付けるようにあいつら『聖書』の原本を失くしたそうじゃない。まぁ失くしたとより存在しなかったんでしょうけど……。女性が死を悟りながらも必死に生きようとした『聖書』のすばらしさが判らないなんて、馬鹿っていうより哀れよね。あんたらも男子派と関わらないほうが賢明よ」
女子は勝手に喋り、話し終えると満足したようでスキップで女性棟に向かっていった。


時間が迫り、
「正常院入鹿さん。結局この『聖書戦争』はどうなるんですか?」と僕が訊ねると正常院入鹿さんは少し悩み「きっと、終わらないだぎゃ。自分が正しいと頑なに思う事は中二病の有無を関わらず人間が持っている業だぎゃ」と言った。
なるほど。と納得する僕。
正常院入鹿さんは手を振りながら、別れの言葉を口にした。



とまぁ、この島では二大勢力が火花を散らし、いつ爆発するかわからない状況です。
いますぐ国連軍の介入を要求します。






くそ、これが限界か……。