コピー&ペースト

私が伝える島の状況を「えっ、それなんてエロゲ?」とか「電撃文庫でこんなのあったなぁー」とかご覧になっている皆様にそのように思わせこの島の惨状をお伝えできない事で、救出が遅れていると思いましたので島にて人間以下の環境にて生活を送らざるをえない人物の話をしましょう。



それは正常院入鹿さんが誤って側溝に落ち、足を怪我した為に医務室に連れて行った時のことでした。
消毒薬の匂いと静寂が立ち込める医務室では当直医の姿はなく、適当にそこら辺の薬品棚から消毒薬や絆創膏を取りますと、正常院入鹿さんを素人ながら介抱しました。
「ちょっと、そこの扉」
最初に気づいたのは正常院入鹿さんでした。部屋の奥にベッドとカーテンに隠れるように存在する白い扉がありました。
「開いているみたいだぎゃ、行ってみるだぎゃよ」
足を引きずりながら彼女は扉の前まで行くと私を手招きしました。
なんといいますか、彼女の笑顔は私にとって勇気が湧くものでした。それはよい意味でも悪い意味でもです。
扉の先は地下に続く長い階段になっておりました。
10分ほど階段を下りた先は、等間隔に設置された裸電球のみが光源だけの薄暗い廊下があり、その廊下にはいくつもの鉄の扉がありました。
「なんだか、幽霊が出そうな感じだぎゃね」
正常院入鹿さんは幽霊への怖れよりも、内から溢れる好奇心に目を輝かせていました。
私はそんな正常院入鹿さんを呆れながら見ますと、近くの扉のノブに手をかけました。その扉は黒ずんで四方が錆に侵食された先ほど開いた白い扉とは対照的な禍々しい感じのする扉でした。
誰かに引かれるように扉は開き、薄暗い室内には両手を鎖で天井に繋がられた女がいました。
「誰?」
女はこちらを覗き言いました。
目を凝らすと、女の目は黒い布で覆われ、黒ずんだ服からは鉄の錆びた匂いが醸し出されていました。
横にいる正常院入鹿さんもその異常な様子に怯えているようで私の服の裾を引っ張り、その場から逃げ出したいと伝えていました。
「怖れなくてもいい。ただ、一つだけお願いを聞いてもらえないか? 久々の来客だ。ちょっと君達の姿が見たくてね。アイマスクを取ってもらえないか」
怯える正常院入鹿さんの制止を振り切り、私は女のアイマスクに手をかけました。
「やめろ!!」
背後から響いた男の声で振り返りますと当直医が私の様子を睨んでいました。
「この女は君のキズが見たいんだ」
キズが見たいとは何でしょう? 私は疑問符を浮かべながらも当直医の只ならぬ形相に女の側からあとづさりました。
当直医は僕と正常院入鹿さんを捕まえると階段を駆け上がり医務室に連れ戻しました。
私達を椅子に座らせると、当直医は面倒くさそうに頭を掻き毟ると他言無用だと念を押し、女について語りだしました。
女は激烈性の対人同調症候群の持ち主だという。対人同調症候群とは、視認した人間の傷が自分の身体に現れてしまう病気だと言う。この病気にかかった者は、腕を骨折した人間を見れば自分の腕が骨折する。丘で処刑されるキリストの絵画を見れば、掌や頭から血が溢れ、わき腹から血が出るらしい。
これは、他社に対して過度に自己を主張する中二病から派生した病気であり、治療法は存在しないらしい。
「でも、なんで彼女はあんな所にいるだぎゃか? かわいそうだぎゃ」
正常院入鹿さんは哀れむように言った。この島を天国のように例えていた正常院入鹿さんにとって、自分の天国の足元で苦しんでいる人間がいることに心を痛めているようだった。
「仕方ないんだ。彼女は対人性同調症候群でありながら、自傷も起こす。これが意味することは分かるかい。彼女は傷をコピーするだけはなく、傷を創造する事も行うんだ。そんな患者が日の下で普通の生活が出来ると思うかい? 僕だってこんなことしたくない……」
その後、部屋から閉め出されました。


中二病にはまだまだ未知の部分が多くある模様です。


一刻も早くの救出とブラックジャックへの依頼を求めます。