バットマン:キリングジョーク 完全版

あらすじ:
バットマンはこのままジョーカーと戦い続ければ、いずれジョーカーを殺すか、ジョーカーに殺されるかの二択を選ばざるを得ないときが来る事を予期していた。ジョーカーとてアーカムの一市民である。悪人だという理由が殺人を容認するのか。バットマンはその選択を恐れていた。
そんな時、精神病院からジョーカーが脱走する。ジョーカーは遊園地を買い取りバットマンの友人ゴードンを誘拐し、ゴードンを狂わせようとする。ジョーカー曰く「この世の全ては出来の悪いジョークだ。それを俺が証明してやる」
招待状を受け取ったバットマンは遊園地に向かう。

感想:
いやぁ、アラン・ムーアっておっさんに感嘆するね。ハリーポッターに出てくるような奇妙なナリしやがって、あのおっさんマジで魔術師なんじゃねーの?

1890円という高値で正味100ページくらいの薄っぺらい本を読んでこれほど考えさせられた事はなかったね。いや、『ウオッチメン』も良かったけど、この『キリング・ジョーク』は俺の小さい頃からの謎を一つ解いてくれたよ。
それは「なんでバイキンマンアンパンマンに負けるのか」
俺は小さい頃からアンパンマンを見て、いつもバイキンマンを応援してしまう根性の曲がった人間だったんだ。だってよ、毎週バイキンマンは負けるんだぜ。あとちょっとで勝利って時にバタ子さんやジャムじいさんが新しい顔を届けに来てアンパンマンが復活してパンチやらキックで逆転勝ちを収める。太古より受け継がれる勧善懲悪の王道ストーリーで完結って訳さ。一週間後も大体同じ道筋でバイキンマンが負けてみんなハッピー。俺はそれを毎週見て、「少しはバイキンマンに勝利を譲ってやれ。月4〜5回勝つなら、一度や二度負けてもいいだろう。負けて惨めな姿晒した人間が再戦する勇気を振り絞ったのにアンパンマンは容赦無いな」ってアンパンマンを憎んだものさ。バイキンマンは毎週違う装置や知恵を絞って悪さをするのに、アンパンマンは大体同じ決め技で勝つ。努力しても才能には勝てないって幼少時から日本国民に刷り込ませるマスメディアの策略かい。
そんで、俺はこの『キリング・ジョーク』を読んで分かったのさ。あれはバイキンマンは勝つ気が無いんだってね。自分は悪役。作者のテコ入れが無い限りは不滅の存在だって何度も負けている内に理解できたんだ。逆に相手は一度きりの正義のヒーロー負けたら新しいヒーローが登場するかもしれない。いや、一度も負けた事が無いヒーローなんだから挫折してヒーローをやめてしまうかもしれない。応援してくれる町のみんな(視聴者)やバタ子やジャムおじさんがそっぽを向いてしまうかもしれないってね。
だから、バイキンマンは勝つ気の無い戦いを挑むし、負けても次の週にはそんな事を忘れてまた戦いを挑む。決定的な勝利を収められるシーンになるとドジを踏む。
もしかしたらその不毛ともよべる戦いを受けるアンパンマンも気づいているのかもしれない。しかし、正義のヒーローに多弁は無用だ。アンパンマンは寡黙に毎週そつなく仕事をこなす出来るビジネスマンって訳さ。つまりはアンパンマンというアニメでバイキンマンが勝てないのは、「愛ゆえに」の一言だった。


キリング・ジョークという短い漫画には、もっといろいろな意味が含まれていて、人の狂気やジョーカー誕生の話、バットマンの苦しみ等など、読む人によって考えさせられる点は多種にわたると思う。現に、最後の解釈は読む人に委ねられているからね。

巻末に収録されている『罪無き市民』も面白い。

バットマン:キリングジョーク 完全版 (ShoPro books)

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日本漫画もキャラ萌えから脱出して、こんな素敵な作品がドンドン出てくればいいのに……。