009 RE:CYBORG

あらすじ:
かつて世界の危機を救ってきた9人のサイボーグ戦士たちは、故郷へと帰りそれぞれの人生を送っていた。しかし、2013年、各国で同時多発爆破のテロ事件が発生、ギルモア博士により再び集結する。その頃、009こと島村ジョーは、その記憶をリセットされ東京で高校生として暮らしていたのであった。(wikipediaより)


感想(ネタバレ有):
サイボーグ009』という作品の内容を「サイボーグの9人が正義の為に戦う話」程度の浅い知識で観に行ったが、鑑賞後「わたしは何故、再度仏陀再誕を観てしまったのか」という不思議な後味の悪い感想を抱いた。
序盤のゼロゼロナンバーサイボーグが世界各地で起きた高層ビル同時爆破事件の謎を追う話では、浦沢直樹の『プルートゥ』を思わせる、平和を築いた英雄のその後とその平和を維持する裏方での働きが描かれワクワクした。
中盤になり、その同時爆破事件には「彼の声」と呼ばれるなぞの声に扇動された事が発端になっている事。またアフリカで見つかった翼の生えた人間の化石、通称「天使の化石」を目視した者の多くにその「彼の声」を幻聴した経験者が増えた事が取り上げられ、私はその「彼の声」や「天使の化石」が何か大きな組織の一端になっているのだろうと、今後行われるゼロゼロナンバーサイボーグ達とその組織との戦いに胸を高鳴らせた。
終盤。衝撃的な展開だった。「彼の声」とは悪の組織の洗脳や指示ではなかった。「彼の声」の正体とは、心身が過度なプレッシャーに置かれた時に体験する「劇的な回心」(宗教的体験)であった。
なんのこっちゃ……。と突っ込みをいれずにはいられない展開。
ゾーンに入った人間が「ビルを爆破して人々に苦難を与えなくちゃ、苦難を与えて乗り越えさせて人々をもっと進化させなくちゃ」とビルを爆破していたんだと。
「天使の化石」は仏像やキリスト像みたいな人造の信仰のシンボルだったんだと。
映像は2Dで視聴したが、とても綺麗で凝った演出もあって観ていて飽きない。

悪辣に貶すほど悪い映画ではないが、視聴者の多くがこのような009を期待して客席に座ったのではないと思う。もっと勧善懲悪に満ちた「サイボーグ対何か」を期待したのであって、そのような正義や憎悪の向けられない抽象的な敵というのはどうも盛り上がりに欠けると思う。
確かに攻殻2nd、攻殻SSS、東のエデンと明確なる悪というよりも社会の歪を敵として捉えてきた作品が多かった神山監督だが、この作品は観ている私達に何を伝えたかったのか理解に苦しむ。「社会問題の提議」というより「新興宗教の勧め」みたいであった。


余談1
ゼロゼロナンバーサイボーグ達は、それなりに各々の性能を披露する場所が用意されているのだが、008ビュンマがサイボーグであった必要性すら存在しない冷遇っぷりに唖然とした。
余談2
エロシーンとか恋愛シーンとかいらないと思うんだ。客層的に。
余談3
主人公の声が宮野守さんだったので、終盤の某シーンでは「こいつまるで刹那さんやんけ。大宇宙で神に喧嘩売っとるで……」と笑いが。