『生首提灯』

えぇ、いっぱいの運びありがとうございます。
最近はずいぶん物騒になってニューなんか見ているとやれ、保険金殺人だの監禁だの誘拐だのって怖いことばかりですなぁ。
そういえば、通り魔なんて言葉もよく使われるいますなぁ。夜道を一人で女性が歩いていたりすると後ろからタっタッタッタッと靴音がして、女性が不安になって振り向いたら黒尽くめの男がポケットからナイフを取り出しグサリッ……。血を流しながら女性が叫んだ頃には黒ずくめの男は女性の持っていたバックをひったぐって遥か彼方に逃亡なんてそんな事件よく起きているらしいですよ。
まぁ、江戸時代にもそんな通り魔見たいな奴いたんですよ。辻斬りって言いましてな、お侍さんがいい刀や剣の才なんかがありますとなついつい試し切りってのをやってみたくなるらしいですわ。最初は藁切ったり竹切ったり……。そのうち動くものが切りてぇなぁなんて考え始めてそこらの野良猫切ったり犬切ったり……しまいに刀ってのは人間様切るように出来てんだ。犬や猫切るんなら包丁で十分じゃないか。人切るべ。って感じで夜道を歩く人見つけちゃあ「切り捨て御免」と叫び切っていたらしいですわ。
ある所に、熊八っていう大層なミリタリーマニアがいたんですわ。こいつのマニアックぶりといったら普段着が軍服。自家用車はジープってゆう生粋のバカ野朗ですよ。軍服なんて着てますから近所からも煙たがれ日がな一日google使っちゃあ「軍服 ナイフ ヒットラー」なんて検索ワード入れちゃあ検索されたサイトを上から下まで舐めるように見る日々ですわ。そんな熊八にある日ネットオークションで落札した『ベトナム戦争で使われた英雄の長刀』なんていわくつきの如何わしい物が届いたんですわ。
「おう、やっと届いたかい?これさえあれば俺も英雄の仲間入りだね。お、ここに血の後みたいな染みがある。こりゃ本物だね。」
なんてぐわいに手に持った長刀をブンブン振り回したり眺めたりしていたわけですよ。そのうち、「こりゃ、この長刀の切れ味が知りたいねぇ。」熊八は冷蔵庫にあった肉やら野菜やら魚片っ端から切っては「こりゃ良いもんだ。」なんで絶賛していたわけですな。人の欲は今も昔も変わりません。熊八もそのうち人切りたくなってしまいまして大き目のバックに長刀忍ばせちゃあ手ごろな獲物探して車に乗り込んじゃ町に繰り出したわけですな。
車出して町についた頃にゃあ夕暮れ、小腹がすいたってんで車の店の前で路上駐車して長刀の入ったバックを車に置いて近くの定食屋に入って飯食らって景気つける為に酒をかくらっちゃあ、ほろ酔い気分で店を出たわけですわ。日も沈みそろそろ人斬りするにゃあいい時間てんで車に長刀取りにいったら車の前で背の高い外人がオロオロしてるわけですわ。
「おいおいおい、ちょっとどうした?」
「アン。新宿ッテココデスカ?」
「何言ってんだ。このデクの棒」
「デクノボウ?」
「リピートしてんじゃねぇよ。デカ物」
「デカブツ?」
「お前さんはオウムか!!自分の言葉はなせってんだ。おう、何か俺に用事でもあるのかよ?」
「オウ、ワタシ新宿イキタイデスゥ」
「新宿かい。おめえさんも知らない異国でがんばってんだろうな。よし、俺が教えてやるよ。新宿ってのはまず右足を前に出すだろ。次にその右足よりも前に左足を出すんだ。両足いっぺんに出すんじゃねぇぞ。すっ転ぶからな。それを繰り返してな。まず東に行くんだ。で見つからなかったら次に北。その次西で最後に南に行く。それでも着かなきゃ近くの家でも店でも入って訊くんだな。死ぬ前には着くからよ。わかったか!」
「オウ、早口スギテ言ッテイル意味ガワカリマセン。ドッチニ行ケバイインダ?」
「おめえさん。こっちが教えてやってんのに俺を見下してわかんねぇだぁ、礼儀ってもんがわかんねぇみたいだな。日本じゃ、教えてほしいことがあったら手を地面つけて頭下げて尋ねるのが礼儀ってもんなんだよ。おい、聞いてるのかこの腐った白樺みたいな体格しやがって……。ペッ」
熊八の吐いたタンは外人の靴にべとりと付く。
「オウ!!シット!!!モンキー。ホーリーシット!!」
「何が嫉妬だ。おめいさんは束縛する彼女か!!堀嫉妬ってなんだい?堀さんが好きなんかい?分けのわかんねぇ言葉吐きやがって!!!………ペッペッ!!!」
熊八の吐いたタンは今度は外人のズボンに付く。
「ファッキュー!!ユーアークレイジー!!!サノバビッチ!!!!」
「何言ってんだよ。おめえさんと話していたら酔いがさめちまったよ。もう一件いくか。」
熊八は外人の横をするりと横切るとテクテク夜道を歩きます。
それに怒った外人はタッタッタッと熊八の後を走り近づくと熊八の車から盗んだ長刀を掲げて熊八の首をスポンと斬った。
あまりに切れ味がいいもんだから斬られたことに気づかない熊八。
「おうおうおう、どうしんだい。なんだかずいぶん頭がふらふらするじゃないかい。ちょいといまさら酔いが回ってきたかい?汗もこんなに出てきやがったよ。首の周りなんかもう……」
なんて首を触ってみたら手にべったりと血が付く。最初は傷でもつけたかと思ったがこの血の量と前かがみになったら頭が転げ落ちそうな不安定さ。
「こりゃ、頭斬られたねぇ……どうしたもんか?近くのホームセンター行って瞬間接着剤でも塗りたぐっていればどうにかなるかねぇ。とにかくこんな状態人には見せれねぇよ。」
熊八、いそいで車の中に入っちゃ右手でおでこ抑えて左手でアゴ押さえ、頭の位置を維持する。
「こんなポーズじゃ、飯も便所も行けねぇよ。」
そんな時に後からウーウーウーウーピーポーピーポーとけたたましいサイレンが鳴り響く。「警察と救急車が出るたぁ。こりゃ、大事件でもここら辺であったかな?」
近づいてくるサイレンは熊八の元に来るなり「そこの路上駐車している車、通行の邪魔だから退きなさい」と拡声器で叫ぶ始末。
「おうおうおう、お上の邪魔しちゃあ行けねぇよ。」ってんで車動かそうにも頭から手を離したら頭がもげちまう。かといってそこらに頭を置いたら血で車内がびっしょりだ。
そうだってんで、熊八はパワーウインドウを開け、頭を車の上に置いて、パトカーが通れるくらいに車を動かした。
「ふぅ、お上もこんなより遅くに仕事とは大変だねぇ。」
横をすごいスピードですり抜けていく何台ものパトカーと救急車を見て熊八は思い出した。
「俺もこんなことしてる場合じゃなかった。早く医者行かねぇと……。そうだあの救急車についていけば早く医者にいけるはずだ。」
てんで熊八、車の上に生首乗せてパトカーのように「ピーポーピーポー」と叫び救急車の後を付いて行った。

「おう、今日はどうやらどこかで大事件でも起きてるみたいだな?それとも事故か?どっちにしてもこのパトカーと救急車の量。ハンパねぇよ。」
「ほんとだな……・おい、最後に通ったパトカー、サイレンの音はしても赤い灯付いていなかったぞ!!」
「何言ってんだい。ちゃんと赤い血が付いてただろ。」


お後がよろしいようで……。


さっき見た三遊亭円窓の『生首提灯』をさっそく現代風に書いてました。
内容はほとんど同じですが円窓さんのほうがうまいです。
書き込み時間2時間……疲れました。

☆あと、カウンター500ヒットありがとうございます。いろいろな所から見ていただいてもらえると思うと嬉しいです。コメントも書かれたりしてなんだか有名ブログへの道をちびちび歩いていると思うと感無量です。

ではまた。落語の感想なんかもらえると嬉しいです。あとお題。