フォンコール(DJ OASIS)


81回目


午後の陽だまりの中で読書をしながら微睡んでいると、不意に机に置いた携帯が鳴りました。
ディスプレイを見ると『090ー23**ー****』はて、何処かで見た気がする数字の配列……。
あっ、俺の携帯番号じゃん。
果たして自分の携帯に自分の携帯番号から電話などかかってくるものなのでしょうか?
俺の頭に去年見たホラー映画のワンシーンが横切りました。けたたましく鳴り響く携帯に、恐怖もありましたが、それ以上に溢れる好奇心に俺は深呼吸をして緑色に光る通話ボタンをゆっくり押しました。
もしもし――、なんてお決まりのセリフを言う前に受話器の向こうから焦った男の声がしました。
「マジで、マジで俺?」意味不明に焦りながら尋ねる声に俺はそっと赤く光る電源ボタンに指を置きました。これは間違い電話か、誰かの悪戯なのだと……。ボタンを押す瞬間向こうのヤツがまた焦りながら言ってきました。
「えっ、お前だろ?kobachiだろ?俺もkobachiなんだよ。俺は別次元のお前だ。ちょっと話さないか?」
――なんて立ちの悪い悪戯だろう。
俺は呆れながらも、この見知らぬ電話相手の悪戯に乗ることにしました。単に暇つぶしとコイツのバカさ加減を知るために……。
数十分ほど話しました。彼こと別次元の俺は、俺と同じように急に自分の携帯にまた別次元の俺から電話がかかってきて、電話による別次元の自分と会話する方法を知ったそうです。彼の話によると、今の俺とは大きく違う人生を歩いているようでした。専門学校を出て東京の中小企業に就職して社会人2年目。会社内の2つ上の女性先輩が好きらしいです。うれしそうに笑いテレながら話すその内容はとても幸せそうでした。彼は「また、電話する」と言って電話を切りました。
俺は彼から聞いた方法でまた別次元の俺に電話をかけてみました。
コール音が耳に響くたびに心が踊り、人と電話することが嫌いだったことなんてすっかり忘れ、「はやく出ろ、はやく出ろ」と心の中で唱えました。
何度もコールしても出る気配が無いため携帯を耳元から離したとき、ディスプレイに通話中の文字が。急いで耳元に戻し、「俺?俺か?」と尋ねました。
電話の向こうの相手は疲れた声で「誰?」と一言呟きます。
これまでの大まかな話を相手の俺に話すと相手の俺は大きく笑いながら「マジで」を連発。その様子にこっちの俺も笑ってしまいました。
今度の俺とも数十分話しました。本当をもっと話したかったけど相手の俺は仕事中だったらしく「悪い、親方がイカってるから、また今度な」と一方的に切られてしまいました。
工事現場で土方をしているらしいです。なんでも高校の時に知り合った女性と仲良くなり、まぁ、世に言う出来ちゃった結婚にいたったらしく、高校卒業後、土方で頑張ってるそうで……俺とは大違いな人生を楽しんでいるようでした。子供の名前を適当にTVに出てた女優の名前から取って奥さんに怒られた事を話してました。どうやら、最初の子供は女の子のようです。
電話を切った後、俺は他の人生を生きる自分の話を聞いていると楽しくてしょうがなくなってしまい、さっそく次の自分に電話をかけました。
比較的に早く電話に出た次の自分。
俺も慣れたもので落ち着いて事の経緯を話し、電話先の自分に今の現状をききました。
「俺か、俺は……」
重い声で話す向こうの俺はため息を付きながらも今、なぜ刑務所にいるのかをゆっくり語りだしました。


数十分後
頬に垂れる汗を拭いながら、「また、話そう」と言って電話を切りました。向こうの俺は不満そうな声をだしていましたが切りました。
なんでも20歳の成人式の次の日、たまたま道で会った中学の友人と居酒屋に行った時、友人の酔っ払った罵声に、ついカッとなり手に持っていた大ジョッキで頭部を何度も殴打して殺してしまったようでした。事の真相を話した後、彼は何度も何度も「ごめんなさい」をを繰り返し嘆いていました。まるで神様に懺悔をするようでした。


暗い気持ちになりながらも、他の自分の人生に少し恐怖を感じながらも、少しの希望を持ちながら、俺はまた他の俺に向けて電話をかけました。


今度の俺は何度コールしても出る気配がありませんでした。何度も切ろうと思いながらも、今度の俺は幸せな人生を送っていてほしいと思い粘ると、やっと電話が繋がりました。
嬉しさのあまり早口気味に「もしもし」と尋ねると、電話口の向こうで疲れた声の女性が全てを諦めた声で言いました。
「もう、やめてください。kobachiは死んだんです」
言い終わったと同時に電話が切れました。


電話を机に起き、窓の外を見ると日が沈み闇が全てを覆っていました。



そんな妄想物語?を考えていた今日でした。