色川武大

色川武大著『怪しい来客簿』
やっと読了。
色川武大って阿佐田哲也の本名なんだね。
知らないで読んでいた。
阿佐田哲也だからってこの本は麻雀本ではなくて、色川武大が小学校から今にいたるまでに出会った奇人?貴人?とにかく一癖ある人物をピックアップして紹介している短編集。
事実と幻想を行き来して書かれるので本の内容が真実を物語っているのかわからないが、正しいと思って読んだ方が楽しい。
色川武大自体が普通の人間ではないので、妖怪が知り合いの妖怪を紹介しているように禍禍しいものです。紹介されている多くの人が一般的に見れば幸せになれない結果で終わっているので読んでいて感動や涙はない。一般的に見て、と書いているのは、紹介されいる本人からすれば貧乏や失敗まみれ、死などの結果がよい結果かもしれないから。
じゃあ、この本は読む価値が無いのかい?なんて言われそうだけど。これは人生の裏を書いた物である。楽しい、幸せ、愛、涙、感動、友情、なんてポジティブな文字が躍る昨今の文化に対して、そのような陽気なムードや世間の流れの前には戦争という辛い時期があって、それはとても厳しい時代だった。時代や世潮のせいで、多くの人が苦しい思いをしたと物語っている。
悪い人は出てこない。乞食のばぁちゃんから、ジャイアント馬場を思わせる相撲取り、教師、田中、など。誰も自分から望んで闇へと堕ちたわけではない。「時代がそうさせた」と切願する姿が見えた。
もちろん色川武大自身もその一人だと思う。

また、この本を読もうと思ったキッカケは前回読んだ「へらへらぼっちゃん」において紹介文が載っていたためなのだが、これを読み、町田康作品の「真面目なのだが不運に見舞われて堕落する主人公」の原点を見つけた。この本に紹介される人物達である。
とにかく、これでまた世間への恐怖が広がった。
読む人は覚悟を……。

怪しい来客簿 (文春文庫)

怪しい来客簿 (文春文庫)