みんな元気。

舞城王太郎著『みんな元気。』読了
面白かったなぁ。どのくらい面白かったといえば、その後に読んだ佐藤友哉が驚くほど面白くないと感じるくらい。分かりづらい?(いや、佐藤友哉については後日に書くけど)
とにかく、本の感想と説明。
まずこれは短編集なわけですよ。
一応全部読んだので一個一個感想を書きますね。あと粗筋。(ネタバレも含む)
『みんな元気。』
粗筋:透明魔人と戦う為に連れ去られた妹を思う家族の物語。
感想:人生を生きていると、高校受験の時にもっと勉強してあっちの高校行っておけばもっとハッピーだったよね。とか、あの時あぁすればよかった。なんて後悔する事って多いいよね。特に自分が今の位置に満足していないとよく考える事。
でもそんな事は無意味でいくら考えたって過去には戻れない。過去は変えられない。なら、どうすればいいかと言えば、これ以上そうゆう事を考えないように人生の選択肢、岐路の場面でじっくり考えて後悔しないように選ぶ事。
でも、僕ら今を生きる人間はどれが長い人生上でもっとも後悔しない選択肢か分からなくて、その場では正しい答えだって、数年後には間違った。って思うし、強欲だからあっちの方向ならもっと幸せになれたって思ってしまう。
そうやって後悔しながら生きていくしかないんだよね。
いつだって透明魔人の来襲に怯えながら……。


『Dead for Good』
粗筋:サディスティックな友人に虐待を受け身体が不自由になった男が友人の来襲に怯える話。
感想:なんだかとても寂しい。人間にはSとMのどちらかの素質がある。なんて言うよね。Sが攻撃的でMがそれに受身。みうらじゅんさんの「愛にこんがらがって」によると、SのSはサディスティックのSじゃなくてサービスのS。つまりはMの望む虐待をプレゼントしてあげなくてはいけなくて、ただそれを繰り返せばいいのではなくて次第に悪化させてMを喜ばせなくてはいけない。
じゃあ、この作品の友人はサービスで男を苛めたのかといえば、どっちかというと苛め返して欲しくて苛めた感じ。
『人を殺すたびに自分の中が死んでいく』
人を殺した人ってみんなそう言うよなぁ。そうだよね、その人との繋がりをつまりはその人との記憶や共有するモノまで殺すんだから。


『我が家のトトロ』
粗筋:不意に天啓により脳の医者にならなくてはいけないという脅迫概念が生まれ大学を目指す男と、それを支える妻と娘の話。
感想:人はある日急に欲しい物が出来たり、ある場所に行きたくなったりする。その延長線上に夢があって。普通の人は、「まぁ、夢は夢。叶うわけないやん」と諦めるんだけど。根拠の無い夢ほど不可思に脳に残っていて脳の中で延々と「あそこに行け」と囁くから困る。「俺にはそんな才能なんてない!もう歳だし無理!!」なんて理論で丸め込めようにも「あそこに行け」しか言わない自我があるのかわからん相手には暖簾に腕押し。結局ソレをしなくちゃいけないくて、していればアイツは文句言わなくて快調快調。
トトロって今思えば、変な奴で絶対に存在しないと分かっていても、大きな森を見るたびにそこにはトトロがいるんじゃないのか?と思う俺はメルヘン馬鹿?
強風で撓る電柱を結ぶ電話線。もしかしたら、この揺れはネコバスが通っているから……。
そう思うのは小学生までだと思いのあなた。何処かで誰かに救われたいと願い神頼みをする事と同じなんですよ。
町田康の「人間の屑」に続く猫小説に俺は大満足です。


『矢を止める五羽の梔鳥』
粗筋:山火事を見に来た男の元に友人がきて近所の連続殺人事件の話を始めた……。
感想:時間軸が滅茶苦茶で。どう感想をいい表せばいいのか分からん。
実験的な作品とだけ言っておく。面白いかどうか言えるほど俺は頭が良くない。


スクールアタック・シンドローム
粗筋:ソファから降りる事が出来なくなった主人公が会社を辞めて酒びたりになり日がなDVDを見ていたら、かみさんに逃げられて見知らぬ男に襲いかけられる。
感想:暴力は暴力を生み、その暴力は次第に渦を巻き大きくなっていく。
小中高校生時に「殺したい奴リスト」を作る行為は問題なのか?アメリカでは捕まるけど。おいらも高校生時代に殺したい奴リスト作った事があるから大丈夫なんじゃない。すっかり本の所在を忘れて最近見つけて「俺ってこわーーい」なんて笑って燃やしたから。デスノートごっこが一時期流行って、PTAが禁止令を出したけど。これって書いた本人から親や先生に向けたSOSシグナルなんじゃないの?それを書くことすら禁止したらそれこそ行為に発展しかねないと思うけどね。殺す方法を考えるって事はちょっと方向を変えたら人を生かす事を考える事と同じなんだけど。
自己啓発本に良く書かれている文句に「死にたいと言う事は生きたい言っているのと同じ」がるけど、殺したいはもしかしたら誰かに救われたい、生き続けたいっていう訴えなのかもね。
とにかく、文中の
≪暴力は伝達される。伝染と拡散≫
に納得。
因果応報やね。



総合感想。
舞城王太郎作品はグロイ表現や文体の異質さに目がいきますが、本質は『愛』について書かれています。どの作品も家族愛や恋愛、友愛などがテーマで意外にポジティブな話が多いいと思います。いや、初期のミステリー系を読んでいない俺だからかもしれないけど。とにかく、この人にはそろそろ直木賞芥川賞を与えた方がいいのでないでしょうか?
(ある話によると石原慎太郎氏が芥川賞候補に挙がった『好き好き大好き……』を見た時、「タイトルを見ただけでうんざりした」と候補落ちした事があったらしい)
とにかく、この本を友人各位に薦めたいが図書館の本なので、『好き好き大好き……』を買い面白ければ友人に押し付けて「読めこの豚野郎」と言いたい。
面白いよ舞城王太郎。もし本人に出逢えたら感涙して腰が砕けると思うほど。会いてぇなぁ、あって感謝の念を述べたいな。でも覆面作家だから会っても気付かないし、サイン会も行わないのか……。
あぁ、友人各位に『阿修羅ガール』なら貸しますよ。2チャンネラーなら好きな本かも……。
今日の読売新聞に物申す。
もうあの人はライトノベル作家ではないと思います。

みんな元気。

みんな元気。