俺、南進して

小説町田康、写真荒木経惟『俺、南進して、』を読了。
荒木経惟ことアラーキーが撮った写真を元に町田康が小説を書く、写真集とも小説とも取れるこの作品。小説の流れと共に写真が盛り込まれている為に、町田康の書く退廃した社会の様子を最初は文章で、その後アラーキーの写真で知ることが出来る。

内容は、売れっ子小説家の主人公の元に、昔付き合っていた岸子という女から手紙が届く。手紙の内容は「あの時のテープ私が持っています。秘密をばらされたくなかったら会いに来てください」という脅迫文。秘密と言う言葉に身に覚えがある主人公は、昔ある筋から手に入れた拳銃を懐に仕舞い、岸子のいる大阪に向かう。
話は中盤から後半にかけて、自分の書く小説と現実が混ざり合い、小説に於いての森田や三谷の行動を対比しながら自分の現状や今後の展開を考える姿なんか凄く面白かった。「夫婦茶碗」で自分の絵本の世界と妻に逃げられた自分の不甲斐なさを描くシーンがあるが、それは本当に現実と虚構が混合して読者の俺はどっちがどっちやんね。と首を捻ってしまう荒っぽさがあったが、今作に於いてその荒っぽさが無くなっていて、こりゃあ、町田康って人は確実にレベルアップしていてすげぇなぁ。と感嘆した。
最後のページ、アラーキーの写真、下部に写るビル街が本当に廃墟に見えて、終盤に岸子が囁く「どこいったって廃墟だけど」と主人公の「他にいくところもないから」の会話に世間と心の廃頽が見えた。
文章も口語体というより幾分詩的要素がデカイ。

俺、南進して。

俺、南進して。