百円シンガー極楽天使

”されど人生山あり谷あり、お前のしたんだろうなドサ廻り”
と、MUMMY-Dも唄っていたが、ドサ廻りとはやはり大変なモノだと思う。特に売れていない芸人(歌手含む)の地方営業は、誰にも望まれていない所に芸を見せに行くのだから、やらずに済んだらなんと素晴らしい事かと思うが、それではお金が貰えずに生きていけなくなのでしょうがない、好きな事で金が貰える訳だから幾分マシか、と自分を慰め、いつか売れてやろうと熱く志すのだろうと思う。
しかし、そんなドサ回りにもプロがいる。
この『百円シンガー極楽天使』はそんな地方営業、ヘルスセンターやキャバレーの巡業をするニセ演歌歌手「夏川リンカ」の物語である。
お前さんみたいなヘボブロッガーの解説じゃちっとも内容が分からんし、読む気が起こらないわ。と唱える方は町田康つるつるの壺』内にて著書について解説を書かれているのでそっちを読んだ方がいいと思います。
物好きな方がおいらのヘボ解説にお付き合いよろしく。
メジャーデビューしている演歌歌手と嘘の肩書きをぶら下げて地方営業を行なう夏川リンカ24歳
(実際の年齢は34歳)が、自分の持つドサ廻り魂を振りかざし、熱心にドサ廻りを行なう話。夏川リンカが妻子持ちの大樹と愛の巣でイチャツキいつこの幸せが露呈してしまうのかハラハラしつつも大樹にドサ回りを煙たがれながらも、唄う事への愛のみでドサ回りをする姿はなんだか凛としていて格好良い。読後、恋をした。リンカ可愛い。


去年からの読書ブームによれば、自分は女流作家というものが何だか好きになれなかった。たぶんそれは自分の女性恐怖症から、女性の露な部分が書かれたモノに、自己が勝手に妄想した女性への
セイントが汚れる事を嫌悪する自分がいた事もあるが、ナルシストを気取った文が多い点からも好きにはなれなかった。(綿矢りさの本も何処かのインタビューで綿矢りさが好きな本に「町田康の人間の屑」*1と書かれていたので手にとってみたが10ページも読まないうちに文章に苛立って読むのを諦めて今は本棚に飾ってある)
しかし、作者の末永直海さんはこの作品で知ったが、なんとも読みやすい。おいらの脳中だけの感覚でいえば、高座に頭の中に着物を着た「末永直海」が現れて、高座の中央に置かれた座布団に座ると
「えぇー、今日はたくさんのお越し誠にありがとうございます。それでは今日は『百円シンガー極楽天使』を一つ」
と、落語を一席喋るような感覚の文章。女性版町田康といった具合のリズム感。最高でしたよ。
本当に面白くて、おいら最上級の褒め言葉でいえば「あぁ、この作者に酒奢りたいなぁ。奢って二時間ほど喋りたいなぁ」*2と思うほどでした。

百円シンガー極楽天使

百円シンガー極楽天使

*1:おいらの人生上一番好きな本

*2:ちなみに、この感想を思った著名人は、滝本竜彦三浦しをんみうらじゅん町田康大槻ケンヂ舞城王太郎「うめ」幸村誠日本橋ヨヲコ古谷実新井英樹宇多丸宇多田ヒカル今敏立川談志太田光
以外に多いいなぁ……。でも、是非連絡ください。借金しても奢ります。