7年計画。

kobachiさんが泣いています。
昨夜遅くに書き終わった履歴書を投函する為に深夜の12時に私達は近所のコンビニ目指して夜道を歩いていました。空は雲と星空が5:5の割合で広がっています。でも、kobachiさんが泣いています。
「だ、大丈夫?」
「あぁ、大丈夫さ。全然元気だよ」
大の男が涙を流しながら言っても説得力がありません。
私は恐る恐るkobachiさんに涙の理由を尋ねてみました。すると、kobachiさんはゆっくり話し始めました。
「だってさぁ、この履歴書を送る会社、そこでは全く働きたくないんだよ。でも、働かなくちゃいけないという脅迫概念と、家族の安心と安定した収入が俺の心を締め付けるんだ。助かる為に好きでもない会社に履歴書を送らなくちゃいけないなんて、俺は何の為に生きてきたのか、この23年間が何の為にあったか分からないんだ」
kobachiさんは時折軽く笑いながら話を終えました。
彼は焦っています。最近、身近の人達がみんな口を揃えてkobachiさんの今後を不安がっていました。その不安を全て受けたkobachiさんは動き出しました。将来への恐怖へ戦いを挑むのではなく、曖昧に妥協した馴れ合いを選び動き出しました。彼は自己を殺して求人誌に書かれている求人募集を片っ端から連絡し始めたのです。「やりたい事」や「好きな事」等という夢を滅殺して、ロボットのようにただ労働に順応するようにしました。それがいけませんでした。彼の心の中で滅殺したプライドが自己回復し始め、彼自身に訴えかけてきたのです。『それでいいのか、君は誰だ、何がしたい、このまま進めば人生に何を残せる』と、kobachiさんは苦しみました。しかし、明確なビジョンを持たないkobachiさんがまたプライドを取り戻してもきっとニートに戻るだけです。
「kobachiさん、いいじゃない。世界に順応するのよ。そんなプライド持っていても無駄よ。社会に適応する為に捨てなさい。あなたは昔から夢なんて一つも持っていなかったじゃない。いまさら、何を望むの? もう青春はお終いよ」
「だけど、俺はこのまま社会の一員とかして人生の意味も考えず、目の前の仕事をただこなしていくだけの人生は嫌なんだ」
「馬鹿、それは単なる言い訳じゃない。あなたは働きたくないだけよ。ニート生活に溺れてそこが居心地良くてたまらないのよ。そこから抜け出す勇気が無いだけじゃない。仕事を始めればそこには違った楽しみがあるわ」
「俺はもう全てが嫌なんだ。何をしても無駄に感じるんだ」
「何言っているの? それじゃ、あなたはここで死ぬとでも言う気?」
「…………」
「ここで死んだらそれこそ今まで生きてきた意味がなくなるじゃない。何も残せない内に死ぬんじゃない」
「そうだけど、俺なんてウジ虫に何が出来るって言うんだよ」
「なんだって出来るわ。まだ23歳なのよ。青春が終わってもその次には朱夏が始まるのよ。そして白秋があって、玄冬へと続くのよ。人生はまだ春が終わっただけなの。ここからまた始めましょ。いつも言っているじゃないカッコいい30代に成りたいって、ガンバろ7年計画でみんなを見返してあげようよ」
「……う、うん」
kobachiさんは一応元気になったみたいです。よかった。地井武男も保険のCMで「人生まだまだこれから」と言っていたので、kobachiさんの人生もまだまだこれからなのです。そりゃ、私の言葉なんてただの言葉ですから何の保証も金銭的価値もありません、そして綺麗事です。でも、こんな事でも言ってあげなくちゃ人間生きていくのは辛いんですね。言葉の力が例え蜃気楼のように実態の無い物でも、今だけは信じてみたいと思います。
出だしが悪くてもいいんです。人生とは出だし次第で決まるようなら簡単なものでは無いんですよ。
と、脳内彼女である私は雲の間から見える月を仰ぎ思いました。