煙か土か食い物

「今日では標準語は政治経済を語る言葉になってしまった。―――人生を語るにはもう方言しか残っていない」by寺山修司「誰か故郷を思はざる」


と、今読んでいる寺山修司名言集に記載されていた言葉が読後に思い浮かんだ。
舞城王太郎の素晴らしさとは何だろう?舞城ファンなら誰もが好きな作品上位に挙げるこの「煙か土か食い物」やっと、読んでみた。確かにこの作品で舞城というジャンルが形成され世間に認識された理由が分かる。これはもうそうゆうジャンルなのだ。確かに一見してみれば町田康の文体に似ているが、柳の下の泥鰌を狙った作品ではない。町田康には無い物を持っている。それは福井弁やトリックなんていう表面的なモノではなく、もっと深い所に何かがある。それは分からん。素晴らしい事しか分からん。それは終盤の説教臭いポジティブ論ではない事は分かる。それはグロティスクな描写ではない事も分かる。では何だろう?それを解くヒントは作者の正体に隠されているようだが。彼は覆面作家で、ネット上でも昔「噂の真相」ですっぱ抜かれただけで、(結局真偽も分からないままだった)真の彼を誰も知らない。ネット上でも「彼は俺の通っていた塾の講師だった」「医者だ」「東大を出ている」「実は女」「いや、男」etc.と噂が噂を呼ぶだけで結局正体を知っているのは、彼を担当した編集者ぐらいらしい。確かにファウスト文芸合宿にも出席しなかった。でも挿絵は描いた。(西尾維新も出席したけど面出さなかったね)と、彼の出生ミステリーなどどうでもいいのだ。この本の感想を書かなくては!!


えぇーと、やっとメフィスト編集部に認められたこの作品。(過去には数千枚の原稿を送って落選した事もあったらしい)のちに「奈津川サーガ」と呼ばれる、奈津川一家の血みどろの物語。あらすじは母親が連続主婦殴打事件に巻き込まれた事を知った、サンフランシスコ病院ERで働く奈津川四郎は、母の様態と、犯人を捕まれる為に日本に戻ってくる。……マザーファッカー!!
奈津川家は本当にイカれた家族の集まりで、(佐藤友哉の「鏡家サーガ」も狂っているけど)俺の中では唯一真面目、といえば良いのか影がうすい三郎が後半の存在感を存分に出していていい。俺、三郎好き、その次に四郎で次郎、一郎って流れかな。一郎はちょっと出番が少なくキャラが掴めなかった。受賞作であり、第一作なので、「俺ってこんな文体や文章で書くからヨロシク」といった作家の挨拶が個所個所に出ていた。例えば、ウサギちゃんと三郎の文芸会談に出てくる「君どんな本読むの?」「ウサギ、ウサギわねーー村上春樹とか町田康とかーー」「二人とも立派な作家やんか」「でも、町田康ってアホみたいだよ」「うーーん、あれはわざとそうしているんやであって、『くっすん大黒』なんて、ドライブ感凄ぇと思うけどなぁ」と、自分の文体に影響を与えたであろう本をさり気なく紹介したり、音楽を紹介したりしている。
多くのレビューで、この作家は好き嫌いがはっきりと分かれる。と書かれていたが、確かに「煙〜」を読み、これを嫌いと一言で片付ける人は必ずいるだろうと思った。逆にこの作品を読めてしまえば、君は舞城王太郎の虜さ。
とにかく、ミステリーとしては中途半端なトリックだし、純文学といえばそれはなんだか違う。ライトノベルにしては重い。SFにしてはサイエンスじゃないし、ファンタジーではまず無い。
正しく、ジャンル「舞城」のこの作品。読んでそん無し!
でも、初めてこの作家の本を読む人は「熊の場所」辺りから読んだほうが読みやすいかな?

煙か土か食い物 (講談社ノベルス)

煙か土か食い物 (講談社ノベルス)


今年のメフィスト受賞作が舞城王太郎佐藤友哉を二で割ったような作品だとどっかのブログに書いてあったので読んでみたいと思う。(岡山弁で書かれているらしい)