嘘あらすじ⑧(最終回)


エントリーナンバー44
作品名 非連続殺人事件
作家名 時里キサト
あらすじ

隣町の通り魔、犬小屋だけを狙う放火、沿岸の館で起こった殺人事件、女子学生父親刺殺事件、何も接点の無いこの無数の事件。これらの事件は連続事件だと相棒の金屋キーチは言った。その夜、金屋は何者かによって殺される。それが、金屋の推測に現実味を与える結果となった。俺は金屋の無念を晴らすべく重い腰を上げた。その時、TVで隕石のニュースが流れた。

エントリーナンバー45
作品名 身代わりの義父
作家名 阿倍暁子
あらすじ

テレビから人柱募集のCMがピカピカ流れている。一日中、ソファーに寝転がってウイスキーをチビチビ呑んでいた私はテーブルの上でゴミに塗れてウーウー震える携帯を取る為に立ち上がる。電話の内容は、亡くなった彼のお義父さんが人柱に応募したいといってきかないそうだ。なんで私なんかに電話するんだよ。チャイムが鳴る、開けてみると義父がいた。

エントリーナンバー46
作品名 電子の泡
作家名 三島征爾
あらすじ

パソコンを5時間も見続けていると、眼球の裏の辺りがちくちくして、炭酸飲料を飲んだ時のような頭痛がする。僕はそれを「電子の泡」と言った。母が密かに僕を「人柱」に仕立てようとしていることに気付いたのは、夜食を食べにキッチンに行った時見つけた応募用紙だった。父も黙認しているようだ。仕方ないかもしれない、引き篭もって親の財産を食い潰す僕が世界の為に役く立てるなら願っても無い事だ。しかし、僕の意見無しに人柱にされてたまるか。

エントリーナンバー48
作品名 その摩天楼を以て、人は鳥と成り
作家名 植松恭輔
あらすじ

地球に落下する隕石が、意思を持ちその意思がNASAに届いたのは落下1週間前だった。隕石の要求はたった一つ。「人間を1億人ほど自殺させてください」それからは地球規模の大パニックだった。世界各国の政府は自殺志願者を募集し始めた。日本も「人柱」と名づけて募集した。自殺方法は決まっていなかった為が、何処からか東京タワーからの転落死だと噂された。

エントリーナンバー49
作品名 ALICE
作家名 田中麻美
あらすじ

失敗なんて何度したっていいんだよ。
彼女は僕にそう言ってくれる。しかし、何度やってもこの小説は途中で失敗してしまう。僕が描きたいのは綺麗な小説。最後は誰もが笑って幸福になる。読んでくれた人も同じように幸福感、充実感に包まれる小説。それが、どうしても書けない。どの小説も最初は幸せなのに、ちょっとした事から転落してバッドエンドになってしまう。僕の願う形とはほど遠い結末。もう書きたくない。悲しい結末など見たくない。
でも、僕はペンを走らせてしまう。それが小説家の性だから……。



この「あらすじ」を総括して、
 小さい頃は、小説が大嫌いで、夏休みの読書感想文など、最初と最後、あと解説を読んで適当に書いていた。そんな私だが、文庫の裏や帯に書かれている「あらすじ」というものが大好きで、よく読む気は無い本を手にとってはあらすじだけ読んでは勝手にストーリーを想像してた。あらすじには無限の可能性がある。その小説の為のあらすじなのだけれど、あらすじは未完である。あらすじの後を考えれば、それはもう考えたあなたの小説である。喜劇を悲劇にだって変えられる。
 私達、一般読者には読まれることが無い49作品がある。(大賞に選ばれれば本になり読めるから正確には49作品ではないが)どれも一人の人間が学校生活の合間、仕事の後、はたまた全てを捨てて一日中を賭けて心血込めて書き上げた小説である。それらは数名の審査員により優劣を付けられる運命にある。誰でも自分が苦しんで生んだ子が一番だと思う。しかし、一番を決められてしまう。8月1日に悲しむ者よ。貴方は間違っていない、世界があなたを否定したわけじゃない。ただ、「好みが合わなかっただけだ」。そう思っておいたほうがいい。
 最後に、私はそんな49作品がこの世に生まれてきた事を感謝したい。