百物語「スノーノイズ」(7/100)

 深夜、やる事がなかった僕はTVの砂嵐を見つめていました。画面に白い点が多数ランダムにポツポツと現れていました。ザーザーっと何かが吹き荒れる音がスピーカーから聞こえました。やる事がなかったので何時間でも見続けていました。すると、画面の右隅に緑の星型の塊が表れては消え、現れては消えました。それが数回ほど起きた時、僕の横にダンボールを被ったダンボール兄さんがいました。ダンボール兄さんは、「池に落ちた蝶は哀れだね」と僕に向かって言いました。僕は、「そうだね、鯉王の餌になるしかなんだからね」と言い返すと、ダンボール兄さんは「違うよ、他の蝶に笑われるからだよ」と言いました。僕は、このダンボール兄さんの言っている事に何故か無性に腹が立ってきたので、「違うよ、隆志君は勝手に落ちたんだよ」と罵声を飛ばし、部屋を出ました。
 部屋を出ると、そこは三年前に勤めていた会社の休憩室で、後輩の宮村君が木製の馬頭観音を金属バットでボッコボコに殴っていました。彼は僕と目が合うとにっこり笑いながら口元に付いた血を吹きながら話しかけてきました。「先輩の出身校って古闇中学ですよね」僕は、そうだ。と答えました。宮村君は嬉しそうに馬頭観音をまた叩き始めて、「そうっすよね。いやね、僕、昨日合コンでぇ〜……ガガッガガガガガビビビ−−−−」電子音が僕の脳内で埋め尽くされて後半の言葉が聞こえなくなってしまいました。ただ、宮村雄二君の後ろに描かれていた今月の社内目標が『備品を大事に整理整頓』が『マチちゃんのこと、好きだったよね。高校の時付き合っていたんだよね』にすり替えられてました。僕は、耳を塞ぎながら「違う! それは高校の時に付いた嘘で、ホントは付き合っていない。しかし、未だに大好きだ」と訂正したら、馬頭観音をタコ殴りにしていた宮村君がいつの間にかいなくなり、小学六年生の少女が立っていました。少女は僕を指差すと、「アブラ幽霊」と命名されました。僕ことアブラ幽霊は、少女ことマチちゃんのもとから走り出しました。走り疲れて立ち止まると柔道場の裏でした。柔道場の中には、伊藤さんと木内さん、いとこの美樹姉さんが三人、輪になってぐるぐる回りながら踊り”アーブラ幽霊、アーブラ幽霊”と笑いながら唱えてました。時折、立ち止まり、”こんな風になるわけじゃなかったのね”と俯き呟いて、言い終わるとまた頭を上げ、”アーブラ幽霊、アーブラ幽霊、お前の油で喫茶フレンチ炎上”と高々に歌いました。僕はその踊りをやめさせようと叫びましたが口にカナブンが入り、喋れなくなりました。そして、息も出来なく苦しくなった僕は部屋に戻りました。部屋にはダンボール兄さんが千羽鶴を折ってました。何故折っているのかと尋ねると、土田君が事故にあってクラス全員で千羽鶴折るって言っただろ。と教えてくれました。TVに952羽の千羽鶴の絵と、それを知らないで喜ぶ土田君が一瞬映りました。ダンボール兄さんは、僕に「何故、仕事を辞めたんだ」「もう貯金はないぞ」「孤独死」「こんな駄文書く為に辞めたのか」「マチちゃんの不倫」「ダイハードは面白いな」「童貞」「僕とおかんの涙と時々ため息」「きもーい」「土田君全快」「安部公房ブーム」などなど、矢継ぎ早に言ってきました。僕は後頭部がキンキンしてきたのでまた砂嵐を見つめなおしました。