SS(師匠,シリーズより)

とある某有名掲示板を観ていたら、師匠シリーズの二次創作を求めていたので、適当に書いた。
適当と言いながらも、それまでの師匠シリーズの概念を壊そうと思うべく作った作品であり、怖い話としたら下の下です。しかし、この作品により、ライトノベル系怖い話においての違ったアプローチの仕方を今後書いてくださる二次創作作家の皆様の踏み台に成りたいと思い候。

読む前に注意!
ネット上に転がる師匠シリーズを一通り読んだ後に読まれる事を推奨します。
つーか、そうしないと意味が分からないと思います。あくまで師匠シリーズ玄人向けに作った為、余計な説明や人物紹介を省きましたから。

てことでどうぞ。




地球をアイスピックでつついたとしたら、ちょうど良い感じにカチ割れるんじゃないかというくらい冷え切った朝だった。
今日は、師匠が面白い物を見せてくれるというので、僕は身支度を整えて師匠が来るのを待っていた。
しかし、いくら待っても師匠は来ない。
約束の時間が過ぎても来る気配はまるで無く。業を煮やした僕は仕方なく師匠の部屋に行く事にした。
電話をすればいいのだが、師匠は寝ていると電話の音さえ無視しそうで、確実なものとしてこちらから向かった。
部屋の前に立ちノブを回すが扉は開かない。
鍵がかかってる?
防犯意識の無い師匠にしては珍しい。
「師匠、僕ですよ。開けてくださいよ! ちょっと寝てるんですか?」
扉を叩きながら叫ぶと、隣の部屋の扉が開いた。スエット姿の女性は寝癖まみれの頭を掻き毟りながら僕に言う。
「その部屋には誰も住んでないよ」
部屋を間違えた。
僕は赤面しながら一旦その場を逃げ出した。
女性から見えない所まで小走りいくと、ふと違和感に気付く。
本当に部屋を間違えたのか?
足場を確認して現在地を確認。そして、等間隔に並ぶ扉と表札を一つ一つチェックして師匠の部屋の前に立つ。
やはり、さっきと同じ部屋だ。
何故、さっきの女性はそんな嘘をついたんだ。


扉をノック。やはり反応無し。扉を叩いたり声を出すと隣の女性が出てきそうで僕は仕方なく師匠に電話した。
コール音も無く「現在この電話番号は使われておりません……」あれ?


部屋の中から物音すらしない事から、もしかしたら綾さんと一緒にどこかに出かけているかもしれない。そうだ、綾さんなら師匠の居所を知っているのではないだろうか。
今度は綾さんに電話を掛けてみる。


「現在この電話番号は……」


携帯が壊れた?
師匠の部屋の前で突っ立っていてもしょうがないので、家に戻る事にした。
入れ違いに家で師匠が待っていてくれるかもしれないという淡い期待を抱きながら……。


部屋に戻り冷え切った身体を温めるためにコタツに潜り込み、師匠が来るのを待つ。
長針が12から6を指し、また12を指す。そんな事が数度繰り返される。
しかし、師匠は来ない。
今日はもう来る事がない。師匠が見せたかった面白い物とはなんだろうと、空想を広げながら……僕は眠りに付く。


明くる日、
サークルに顔を出すがやはり師匠の姿は無い。綾さんの姿も無い。
他の人に聞くと、大概の人が「知らない」の一言。
不思議な事は、その「知らない」の後に「誰?」と言葉をつける事だ。ギャグやドッキリではなくサークルの人たちは誰も師匠と綾さんの存在を知らないような口ぶりだった。
師匠や綾さんの事を話すと。まるで、僕が嘘でも付いているような目でみんなが僕を見返した。
しまいには、「君はこのサークルの一員だっけ?」などという人まで現れ、僕は気分が悪くなりその場を後にした。
僕はどうにかしてしまったのか? 
いや、そんなことは無い。師匠も綾さんも確かに存在する人物なんだ。
突如頭が痛み、僕はその場にへたり込む。
指先が痺れ視界が歪曲する。
僕一人ではもうどうしようも無い。誰かの助けが必要だ。
僕はポケットから携帯を取り出すと、震える指で京介さんの携帯番号を押した。
電話機を耳に当てる。
またあの「現在この電話番号……」という声がしたら、きっと精神が壊れてしまうのではないかという不安をぎゅっと押し殺した。
コール音がなる。
よかった、本当によかった。
5回目のコールで電話が繋がる。
僕は事態を正確に伝える為に一度大きな深呼吸をした。
「京介さん、じつは……」
「はぁ、京介って誰?」
受話器から声は野太い男の声だった。間違いなく京介さんのものではない。
「す、すいません。間違えました」
僕は即座に電話を切り、再度京介さんに電話する。
電話はすぐ繋がるが、またあの野太い声が響く。すぐに切り液晶画面を確認。ディスプレイには確かに京介さんの名前と電話番号。
また電話を掛ける。繋がるがあの男の声。それも若干怒っている様だった。
4度目になると、話し中となり繋がらない。
それ以降はずっと話し中だった。
着信拒否かもしれない。
僕の中に溢れる『京介さんも消えた』という最悪の予想を裏切る為に、ふらつく身体で京介さんのアパートに向かった。




「あの世だの、来世だのみんなが世話しなく話題に出すけど、この世をちゃんと直視している人なんて何処にいるのかねぇ」
昔、師匠と話していた時に、師匠がボソッと言った言葉だ。
返事を求めるような声量ではなかったので、その時は聞き流したが、思えば何の話題をしていた時に師匠が言ったのだろう。

京介のアパートに向かう途中、期せずしてコンビニから出てくる京介さんを見つける。
安堵する僕は、その心とは裏腹な態度で物陰に隠れてしまった。
京介さんは、コンビニ袋を携えてアパートの方に向かって歩き始める。
僕はなぜ身を隠すのだろう。
決して気付かれまいと距離を置き京介さんの後をつける。
京介さんは、アパートの近くまでくると、アパートの前を通り過ぎ四つ角を曲がる。
僕も見失まいと急いで角まで走り、そっと身を隠したまま角の向こうを見ると京介さんは廃ビルへと入っていった。
こんな所に廃ビルなんてあっただろうか?
特に気にしていなかっただけで存在していたのか、それとも僕が気にしたから存在したのだろうか。
僕も京介さんが入った後、少し時間を置いて中に入った。
タイル張りの玄関を抜けると、事務所などでよく見るの机や椅子がバリケードのように無造作に積まれている。
奥の部屋でガラスを踏み割る音がして、僕は恐る恐る向かうとその部屋に京介さんはいた。いたというより、僕を待ち構えているようだった。僕と目を合わせると呆れた顔をした。
「京介さん、実は、」
「やめてくれないか!!」
僕の言葉を遮るように、京介さんは叫んだ。
「もう、やめてくれ。私に付きまとうのはもう勘弁してくれ」
何を言っているのか分からず、僕は言葉をなくした。頭の中では師匠や綾さんがいなくなった事を伝えたいのに、どうしてだろう言葉が出なかった。
目線を落とした僕に光り輝くモノが見える。京介さんの足元には割れた鏡が散らばっているのだ。いや、京介さんの周りだけじゃなった。部屋中に割れた鏡が散乱している。足元の破片に僕の顔が映る。僕はこんな顔をしていたのか。
「京介さん、確かにコンビニで見かけて声もかけずにストーカーっぽい尾行してしまってすいません。ただ、聞いてください。師匠や綾さんが何処にもいないんです。大学のサークルの奴らも知らないというし、京介さんこれはどういうことなんですか?」
京介さんはコンビニ袋に右手を突っ込むと、即座に抜き出し、銃口を僕に向ける。
ありえない。
京介さんが拳銃を僕に向ける事も、京介さんが拳銃を持っていることも。
「もういい加減やめてくれ。何度言わせるんだ。君の言う師匠って誰なんだ? 綾って誰だ。君の妄想に付き合うのはもう勘弁してくれよ。私はこんな事したくない。でも、これ以上私の前に姿を現すなら、私は君を殺す」
師匠、綾さん、妄想、殺す。
次々にありえない言葉ばかり目の前の女は発する。コイツは本当に京介さんだったのだろうか? 僕の知る、爽やかで姉御肌でいざという時に頼りになる京介さんだったか?
意識とは別に、奥歯がカチカチと音を立てる。
「あ、あなたはきょ、きょう………京介さん……、きょう……京介さん、ですよねっ」
奥歯の次は涙が、僕の身体はどうしてしまったんだ。
「君は、とうとう何も分からなくなってしまったのか。仕方ない私が一から教えてやる。君と知り合ったのは、オカルト系のサイトのオフ会だ。一人浮かない顔をしている君に私は話しかけた。君は最初は戸惑っていたが、酒の力もあり次第に口数を増やしていった。そして、君は私に自分が書いている小説の話をし始めたんだ。その小説はオカルトに詳しい師匠とその彼女の綾、そして私と同じ名前の京介というキャラクターが登場する話だ。私は社交辞令として君の小説を絶賛したよ。そしたら、君はいい気になり昼夜関係なく私に書き上げた小説を送ってきて、感想を求めたな。せわしくなく、私の都合なんて無視して必要に感想を求めた。まるでそれだけが生きがいのように」
「……嘘」
「嘘か……自分の愚行を認識できていないからこうなったんだ。私はそんな君と距離を置き始めた。そしたらどうだ。次は私のストーキング。本当に……君はイカれているよ」
「京介さん、言っている事さっぱり分からないですよ。師匠も綾さんもいるんです。”いた”でも”いない”でも無い。”いる”んですよ」
その時の僕はどうしても分かってもらいたかった。
この世で一人でいることが怖くて堪らなくなった。
京介さんは銃口を下げ、僕の足元に放り投げる。
「もういい。何を言っても無駄のようだな。もしこの世が現実か夢か知りたければ君はこの部屋に転がる鏡の破片で喉を切り裂けばいい。もし、夢なら痛みは無い。現実なら、君の望む夢の中へいけるさ」
京介さんはそう言うと、落胆したような悲しむような顔をして僕の横を通り過ぎる。
僕は拳銃を拾い上げ、京介さんの背中に向ける。
「それはモデルガンさ」と捨て台詞。
引き金が引けない。
僕は拳銃を地面に投げつけ、そっと直角三角形のような形をした破片を手に取る。
思い出そう、何を間違えたのか、全ての始まりは何処からだったのか。





僕の生まれた村はゲーセンもカラオケボックスも大型書店もデパートもボーリング場も無かった。娯楽施設が何も無かった。あるのは山と川だけ。僕はそんな村が大嫌いだった。一刻でも早く村から逃げ出したかった。その為だけに勉強をした。勉強だけが唯一の暇潰しだった。
高校三年生になった僕は迷わず都会の大学を受験した。
目指していた東京の大学は落ちてしまったが、滑り止めで受けた地方の大学が受かった。それで充分だった。この村から一キロでも遠く文化的な生活を送れる場所なら何処でもよかった。
僕は大学に入学すると友達作りに奔走した。特に理由も無くオカルト系のサークルにも入った。
しかし、僕は友達が出来なかった。きっと僕の方言の訛りがきつい事がいけなかったのだろう。僕は勝手に結論付けた。僕は次第に人と顔を合わせる事が怖くなった。授業に出る回数も減り部屋に篭るようになった。もちろん、そのことは誰にも心配されなかった。
そんな時、京介さんと知り合ったのだ。
自分を変える為に無理してオフ会に行った僕に優しくしてくれたのは京介さんだけだった。
そうだ、僕は京介さんとの縁が切れるのを恐れて、師匠シリーズを書き始めたんだ。出来たネタを京介さんはとても喜んでくれた。
ネタ……。そうだ、僕の成りたかった理想像を「師匠」と名づけ、憧れの彼女像を「綾」と、欲しかった者を「京介」と名づけて作ったんだ。全部、手にする事ができない夢で作った物語だ。
誰も存在しないから夢だ。夢物語だ。


鏡に映る僕は、入学した時よりも髪が長く吹き出物も多い。醜い。僕では無いようだ。
僕は落とさないように鏡を強く握り締め、ゆっくり鋭利な先を喉元に押し付ける。
手に何か暖かい液体が、でも痛くない。
きっとこれは夢なんだ。




――2000年12月12日
大学生二名が校舎3階の廊下にて座り込む彼を目撃。その後の足取りは一切判らず。正月になっても帰らず、また連絡も取れない事から両親が彼のアパートを訪れるが、部屋には彼は不在。その後、一週間彼の部屋にて両親が帰宅を待つが帰ることなく、連絡また取れず両親は捜査願いを最寄の警察署に提出。怨恨の線とパソコンの履歴から某カルト教団を疑うが証拠は出ず。部屋に散らばる書きかけの小説から、失踪寸前の彼は精神錯綜状態にあったと思われる。
――2001年1月11日
匿名で彼の所在を伝える電話アリ。声から20代の女性と特定。発信源は駅前の公衆電話。防犯カメラには通報人の姿は確認できず。
伝えられた場所は某ビル跡。警官二名が向かうが彼の発見は出来ず。応接間に使われていた部屋にて血痕とモデルガンを見つける。



――2001年6月19日
22時36分にて、某掲示板に彼の小説の断片と思しき書き込みアリ。
関連性不明。






あとがき!
出だしは「涼宮ハルヒの消失」を丸々パクリました。と言いますか、製作当初は涼宮ハルヒの消失っぽい話を書こうと思っていました。
しかし、書くに連れてそれでは芸が無いので、ファウスト系作家のような流れにして無難に終らせました。