囚われているのか、問わられているのか。

誰も助けてくれないのなら、自ら動くしかありません。
私一人の力はとても微力なので、島内にて共に脱出を誓う仲間を探すことにしました。
大勢の人間が暮らす島ですが、知り合いでもない人間に脱出の事を話し、それが看守の耳に入っては元も子もありません。まずは知り合いから攻めてみる事にしました。


昼休み、正常院入鹿さんは食堂にてきつねうどんを食べていました。
「何か用事だぎゃ?」
私は周囲の人間の目を気にし、場所の移動を促しました。
「こ、告白だぎゃ!?」
全くもって違います。
ひとけのない空き部屋に入り込むと、私はこの島から共に脱出しようと打ち明けました。
「か、駆け落ちって訳だぎゃね?」
それも違います。
「でも、なんでこの島から逃げ出したいのだね? この島は確かに冬は寒いけどロシアなんかより全然暖かいし、温暖化の影響でそのうちもっと暖かくなるんだぎゃよ」
寒さに耐え切れなくなった訳ではありません。こんな島に幽閉されているという事実が嫌なんです。いや、もはや人権侵害です。
「幽閉? こんなに自由に島の中を歩き回って、好きな食事を食べられて、言論の自由表現の自由も約束されたこの島で? 『ここは閉ざされてると思えば牢になり、出たくないと思えば城になる』だぎゃよ」
そのような考えがあるのかもしれません。特に正常院入鹿さんのように長年島に住む人間とすれば、もはやこの世界こそが正しいと思うのかもしれません。しかし、それだからといって本土で暮らす私達の両親や兄弟・友達を無かった事になど出来る訳ではありません。
「君は赤子では無いのだからそろそろ親離れするべきだぎゃ、友達ならこの島にだって沢山いるし、これからだって友達は増えるだぎゃ」
では、正常院入鹿さんはこの島を出たくないですか? このままこの島で暮らし年寄りになって牢死する事を待っているのですか?
「そんな事ないだぎゃ。思っていないというより、そうはならないだぎゃ。私が望まずともこの世界は収束して消えてなくるだぎゃよ。お祭りを楽しんでいる時に時計を見るなんて馬鹿だぎゃ。終わりまで純粋に楽しめばイイだぎゃよ」
結局真意は病気特有の妄言でかき消されてしまいました。
正常院入鹿さんは医療室からアナウンスで呼ばれて、「もっと素直に告白して欲しかっただぎゃ」と冗談めいて言い、笑いながらスキップで部屋を出て行きました。
その後、部屋に戻りXさんにも脱出の事を話しましたが、Xさんは終始上の空で「お前が本当にそれを望んでいるのなら手伝わんことは無い。ただ、救援がこないのはお前が本当は救援を望んでいない結果からではないか? 終わらない夏休みは小説の中で十分だ」と言葉を吐くと布団にもぐりこみました。



どうやら、誰も脱出には意欲的でないようです。今後も脱出メンバーを探しつつ、皆様からの救援を待ちたいと思います。
私は本当に助けを求めています。はやくSITの要請を……。