歴史と計画

真偽を問わずに。
Xさんが話すには、始まりは砂漠の真ん中で暮らす男の娘への愛から始まった。
男には娘がいた。娘は物心ついた時から空を見上げると「お父さん、今日も海鳥が飛んでいるわ」と空を指差し笑った。
上記の通り、男の住む場所は砂漠の真ん中である。少し歩けばオアシスがあるが、近場に海など存在しない。現に男も生まれてから海を見たことが無く、男の住む村の大半が海を見ずに育っていた。行商人の話や、図鑑で知った海は男にとって単なる大きなオアシスのようなものだと認識しか与えていなかった。海鳥など飛ぶはずが無い場所で娘は海鳥を見つけた。
娘は自分以外視認出来ない海鳥を眺めては、いつか私も海に行ってみたい。と願うようになった。
母がいない環境によって心の何処かを歪ませてしまった娘に男はいつか娘を海に連れて行ってあげようと思うようになった。
娘は21歳の誕生日に死んだ。
元々、母親譲りの病弱な身体だったこと。架空の海鳥を見る事によって同世代から言われも無い迫害受けていたこと。死因は数あれど、男は娘の死を運命だと何処かで思った。悲しみよりも生まれ変われるとしたら海辺の町で健やかに育ってほしいと願った。
葬儀を終えると、男は家も家具も先祖代々受け継がれていた宝刀も、娘が生前着ていた衣服も全てを売り払って村を出た。
男は島を買った。
娘が見ていた海鳥がたくさん住む無人島を買うとそこを安住の地と決めた。
そんな島にある日一隻のモーターボートがたどり着く。モーターボートから降りてきたスーツ姿の男は、島に住む男に島の開発を勧める。
そして、この中二病患者の住む島が出来る。




私は島の歴史なんて全く興味がなった。
遠い昔の話よりも私とて大事な過去は昨日という過去。
彼の遺志を受け継ぎ、患者番号FE40536を探し出すこと。
島に住む患者には全て患者番号が割り振られています。
しかし、その患者番号を患者は隠します。悪魔が真の名を隠すように。患者たちは自分に割り振られた番号を決して口にしないし、誰かに教えたりしないのです。
それは、中二病という病気が、他者によって割り振られたレッテルのような番号をオリジナリティーの欠如と読み取り拒否していると思われます。つまりは、患者番号を認めていないのです。
ですから、誰かの患者番号を知ろうと思うと看守の持つモバイル端末を見る必要がありました。
しかし、看守もそう簡単に見せてはくれません。そこでXさんの知恵を借りようと相談した所、Xさんは島の歴史を語りだしたという始末です。
「この島はいまだかつて無い状況にある。それはお前がこの島に来たせいかもしれなし、もしかしたら必然だったのかもしれない」
私はそんな現在の事ではなく看守番号を……。
「『超人・プロジェクト』は僕らを生み出た。『空想量産化計画』は僕らに妄想の自由を与えた。『救世主育成計画』は僕らに行動力を与えた。世界は新しいページを捲ろうとしている。もう止められない。これからは個人主義の暴走だ。お前は流されずに流れて生きていくんだ」
Xさんは何か感極まっているようでした。まるで別れの台詞のような。
「患者番号なら、医務室のパソコンでも調べることが出来るはずだ。あそこには島内の全ての患者のカルテが納まっている。きっとカルテには看守番号が明記されているはずだ」
なるほど。
私はXさんに感謝の言葉を伝えると部屋を出ようとしました。
ふと振り返りXさんに、すぐ帰ってきますから。と言うとXさんは微笑んでいました。




私は……。





くそっ、看守が起きやがった……。