惨劇アルバム

あらすじ:
婚約が決まり幸せの絶頂にいた美咲は、過去を振り返ってみようと昔のアルバムを開く。幼少期から今までの出来事が映った写真が見ていくうちに、自分の幼稚園時代の記憶が思い起こされる。
「友達と一緒に川を観に行って、私は溺れて死んだ…」
自分が死んだ時の記憶が蘇り、突如パニックになる美咲。
婚約者に助けを求めると、男には婚約者ではないと突っぱねられ、出身校に電話すると「入学した記録は無い」
と言われる。
偽りの記憶に翻弄される美咲は母に助けを求めるが…。


感想(ネタバレ有):

  • 幸福の眺望

自分の記憶が偽りだらけというのは、作中でも書かれていたが、「トータル・リコール」や「ブレードランナー」であったので、ありきたりなネタを持ってきたな。と油断していたら、中盤の
「お母さんは魔女で、私はお母さんの掌の平で遊んでいるに過ぎない。いや、お母さんが私を弄んでるのかも」
ポカーンでした。
こいつ頭おかしんじゃないか?
精神病を患っているからそうゆう被害妄想が?
読み勧めていくと、本当に母親は娘の記憶を書き換えていて再びポカーン。

  • 清浄な心象

極度な潔癖症の女が「完璧な胎児」を求めて、化学薬品に接触するたびに中絶する女の話。
女のヒステリックな行動とその女に最初こそ抵抗していくものの次第に女に行動に諦観を決め込む旦那の擦り切れていく心情が、面白いようで怖い。
特に化学薬品が入ったオニギリを食わされたとコンビニの前で暴れる女の姿には…。

  • 公平な情景

何事にも「公平」を求める教師によって、イジメに遭う少年の話。
「西中島は辺野古を殴りたい。辺野古は西中島に殴られたくない。これに公平な審判を下すとなると、西中島の殴りたい回数を半分にすればいい!!何発殴りたい?千発か?じゃあ、500発辺野古を殴れ」の展開には、昨今のイジメには本当にありそうで怖かった。

  • 正義の場面

風呂場で溺れて死んだ老人が幽霊になって街の悪人をしばきまわす話。
幽霊が大活躍する話に思えたが、最後のどんでん返し。
すると、街の住人は浮かぶスコップに驚いたんじゃなくて、スコップを振り回す姿に驚いたのか…。
アメコミ好きの私的には、耳の痛い話でした。
アメコミの弱点なんだよ。「法的機関に頼らないで個人が暴力で物事を解決する事の正しさ」ってのは、アメリカだと復讐譚も多いし銃社会で癒着が多いから、なんとなく容認されているが、日本だとねー。

  • 救出の幻影

息子の日記を盗み読む父親、読み勧めるうちに息子が犯罪を犯している事に気付いた父は犯行場所に向かう。
今まで作品は、人の内面の怖さを書いていたが、最後にしてそのB級映画のような安いホラーが出てきて安心した。「肉食屋敷」や「家に棲むもの」のような出来過ぎでありながらも様式美すらかもし出すホラー。
この作品群の中で唯一の清涼剤でした。


総括。
全てを読むと、短編の全てが繋がっていて、歪に捻じ曲がったある家族の姿が映し出される。
今まで読んできた歪な家族物語は、近親間での性交渉や恋愛で曲がっていたものばかりだったので、一人一人が歪な世界を持っていて、そんな奇特な人が集団として一つの家に住むと言う歪さには感嘆。
小林先生らしい『薄気味悪い気持ち悪さ』が満載なホラー小説でした。

惨劇アルバム (光文社文庫)

惨劇アルバム (光文社文庫)

余談。
ただ最後に娘は死んでいて、母親の中に娘の擬似人格が
あったとすると、幸福の眺望の記憶は誰のモノなの?あれは娘の死体を見て母親が想像した偽の記憶って事なのかなぁ。

余談2.
個人的に「気持ち悪い小説」の最高峰は平山夢明先生です。東京伝説とか特に!!