海を見る人

小林泰三先生のSF短編集の一遍。


あらすじ:
『山の村』に住む主人公は、山を下った先の『浜の村』から夏祭りをやってきた少女『カムロギ』に恋をする。
カムロギは「次の夏祭りにまた来るから」と行って山の村を後にする。
どこにでもあるただのひと夏の恋物語
しかし、その世界はどこにもない標高と時間の流れがリンクした不思議な世界だった。



感想(ネタバレ有):
「山の村の人にとっては夏祭りは年に一度の大イベントですが、浜の村の人からすれば一週間に二度あるのです」
から読み解くに山の村の一年は浜の村では三日。
出会った時の年下の少年も山の村で数日過ごして浜の村に行くとカムロギよりも年上に。
時間の流れが違う世界に生きる二人の恋は刹那的だった。
他の人の書評を読んだら「ロマンティックな作品」と書かれていたが、個人的には小林泰三先生が生み出す薄気味悪い気持ち悪さがにじみ出ているように思えた。
後半の海に流れていくカムロギを見つめ続けるだけの主人公に悪寒を覚えた。法被を着て永遠に流れ続ける恋人を毎日観続けるというのは、独占欲の塊のようで、他の恋人を探すでもなく彼女の為に無駄だと分かっていても海に漕ぎ出すでもない。その場で足踏みをし続けるその執着心は、死んだ恋人の遺体を剥製にしたようで気持ち悪くないか。

海を見る人 (ハヤカワ文庫 JA)

海を見る人 (ハヤカワ文庫 JA)

余談。
「酔歩する男」の手児奈もそうだが、このカムロギも恋に戸惑って身投げするの好きだな!!

余談2。
短編集にある「独裁者の掟」や「門」もお勧めです。
特に「門」の艦長ちゃんは、私の脳内では完璧に加藤茉莉香でした。