JORGE JOESTAR

先日、散歩をしていましたら、公園の真ん中で焚き火をしている方々がおりまして、ざっと20人くらいがワイワイ言いながらキャンプファイヤーのような大きさの炎を囲んで騒いでおりましたので、私も何の催しかと尋ねましたら、
「あーこれっすか。これはホラ焚書ですよ!JOJOノベライズ面汚しの本をこうやって燃やしているんですよ」と人々が笑いながら、時に「こんな本なんで買ったんだ」「もう記憶から消したい」と叫びながら山積みになった本を火にくべていました。
私は、そんなに要らないなら一冊貰ってもいいですか。と訊きますと、後悔しても知りませんよ。と言付けされたのちに一冊戴くことが出来、手に入れましたのがこの小説です。


あらすじ:第一部の主人公「ジョナサン・ジョースター」の息子であり、第二部の主人公「ジョセフ・ジョースター」の父親である、公式設定では「英国の空軍パイロット」としか紹介されていなかった「ジョージ・ジョースター」と、同じ「ジョージ・ジョースター」の名を持つ日本の西暁町に住む少年の奇妙な冒険である。


感想(ネタバレ満載):
『VS JOJO』と題して、有名作家勢がJOJOを題材としたオリジナルノベライズに挑戦するという企画。
企画の元となったのは乙一先生の『The Book』である。JOJOの大ファンである著者は自らJOJO第四部のノベライズを書きたいと出版社に持ち込み、5年の時間を書けて書き上げた『The Book』は出版時に、今までのコミックのノベライズとは大きく違った*1作品に発売当初は賛否両論であった。今では肯定的な意見が多い。
そしてそこから『VS JOJO』企画が発動する。
第一弾は第五部で能力が強すぎるという理由だけで物語から途中退場した「パンナコッタ・フーゴ」のその後を上遠野浩平先生が執筆した『恥知らずのパープルヘイズ -ジョジョの奇妙な冒険より-』である。JOJOの心理戦を文章化する為に戦闘中の心の声を()で表現した。
第二弾は知らん。未読。
そして第三弾『JORGE JOESTAR』が先日発売された。
上記にあるようにジョースター家とDIOとの因縁を綴ったJOJOシリーズにおいて今まで何も語られていなかったジョージ・ジョースターの物語とあって発売前から話題になっていた。


盛り上がって期待していたが、なかなかキツイ内容でした。
物語は二部構成で1900年のジョージ・ジョースター(ジョセフの父親)の物語と2012年のジョージ・ジョースター(名探偵)の物語が交互に語られていきます。
序盤はそれほど悪い作品ではないと思いました。
1900年のジョージは小さな頃から友達に苛められていてそれを毎回リサリサが助けてくれていたが、ある日イジメっ子が殺されてしまう犯人を探すうちにリサリサが波紋使いだとバレてしまったり吸血鬼や石仮面の存在、母親の過去とディオとシリアスな展開の中で、望んでいたジョジョ小説といったものでした。スタンド能力を持たないと設定されているジョージがスタンドの変わりにビヨンド*2を信じるってのも面白かった。(九十九十九自体はそんなに前に出ていなかったし)
2012年のジョージも町の怪事件を解決したものの、どうも腑に落ちずにいたら、深夜に燃え上がる家屋を見つけ、家屋から助け出した九十九十九とともに真犯人吉良良影がいる杜王町へ向かう。っていうのも、1900年のジョージとは違って舞城小説らしいカジュアル感にジョジョネタが入り込んでいて良かったと思う。スタンドを使った密室殺人を名探偵の主人公が科学的に謎を解くみたいな、トリックやうみねこ的な非科学VS科学といった対図が見れるんじゃないかとワクワクした。
ところがどうだい。
中盤からこの装いがぶっ壊れはじめる。
1900年のジョージは、教会で起きた集団焼死事件を見つけると家族でイギリスに逃げ出す。その後かなり話が進んで、あの集団焼死事件は「犯人は被害者で集団ヒステリー」みたいな適当な推理で思考停止する。イギリスでも飛行機に興味を持たせてくれたモーターライズ家といろいろあるが、ぶっちゃけどうでもいい話。モーターライズ家の事件では、犯人はフランスに逃げたがフランスから帰ってきた犯人が「俺じゃない、お前が犯人だと周りに疑われている時にフランスにいてごめんね」の言葉を何の疑いもなく許す。
窮地に立つと九十九十九が突然現われて何度もジョージを助ける。如何なるスタンド能力よりも九十九十九が勝っている、ジョジョ小説でオリジナルキャラが無双するなよ……。
勝手に消えて、死亡扱いされるが、実は魂を外に出していたから魂を戻して生き返りました。のクソ展開。

2012年のジョージは1900年のジョージよりも遥かに上を行く意味不明さである。アマゾンレビューの言葉を借りるなら「スーパーJOJO大戦」そのものであった。
まず杜王町が島になる。その島になった理由は語られたが、その原因というか島にした能力者は不明である。*3
島になった杜王町にネーロネーロ島がぶつかってきてくる。ネーロネーロ島にはパッショーネファミリーがいて、ここで第四部のキャラと第五部のキャラが出会う。パッショーネファミリーの目的は逃げたディアボロを捕まえる事。
つまりは杜王町を舞台に第四部と第五部のキャラが手を組んで吉良良影とディアボロを見つけ出す』という流れに。(ここは素直にわくわくした)
流れにならなかった!主人公は九十九十九の力で火星探査船に飛ばされる。(どう考えても、テコ入れです)
火星探査船の中には、プッチ神父とヴァレンタイン、サウンドマン、ポコロコがいた。(プッチ神父は第六部、ヴァレンタイン、サウンドマン、ポコロコは第七部のキャラ)そして宇宙船は火星に立つカーズを見つける(カーズは第2部のキャラ)ここらでジョジョシリーズの全てのキャラが総動員すると予感した。
カーズを乗せて地球に帰ったジョージはカーズの力を借りて平行世界に行ったり過去に行ったりして、ディオはあの第三部で死んでいなくて、あれはキューブハウスの下に存在したタイムマシンを使って過去に戻ったディオの息子のディアボロが鉄の棺を海から回収して、本物の代わりにディオの魂を半分入れてジョバーナで作ったディオの偽者を棺に入れたんだよー。ジョナサンにはスタンド能力があって、その能力は血縁の過去や未来を見通す能力(ザパッション)で、ジョナサンの身体を手に入れたディオはザワールドとザパッションの二つの能力を持っている。そんで平行世界のカーズの血肉を食べたディオが究極生命体になって世界を統治しようと企むが、ジョージとカーズが野望を食い止めるって。
どうゆう話だよ。これでもかなり話を簡素化したぜ。
プッチ神父が第六部のようにスタンドを進化させて世界を回して、世界が36巡させたとか、ディオがD4Cを持つヴァレンタインを平行世界から何人も集めてカーズを平行世界に飛ばすとか、スティールボールランで集めていた聖人とはパラレルワールドのディオの遺体だったとか、ディオの背後にはキリストのビヨンドが憑いていたとか。ディアボロのキングクリムゾンと吉良良影のキラークィーン(バイツァ・ダスト)が対面すると円環する。とか、カーズとバイツァ・ダストが衝突するとカーズが過去に行くとか。その他沢山の舞城設定。

しまいにゃ、ジョナサンが生き返っちまったよ

全部パラレルワールドなんだって!
ばっかーじゃねーの



まず言いたいことは、岸辺露伴がでます。スタンドは「ヘブンズ・ドアー」。吉良良影がでますスタンドは「キラー・クィーン」。ジョルノ・ジョバーナは「ゴールドエクスペリエンス」。ディアボロは「キングクリムゾン」漫画の設定通りです。
しかし、ナランチャがでますがスタンドは「エアロスミス」ではなく「Uボート」潜水艦です。ブチャラティがでます「スティッキーフィンガーズ」ではなく「グッドナイトムーン」
漫画設定と漫画設定でない理由が明確化されていない。まるで作者のその場の都合で漫画設定を変えている予感すらする。
漫画に出てくるオリジナルキャラのみが登場する小説なら話の都合もあるだろうから許せたが、何の魅力も無いオリジナルのスタンドを持つオリジナルキャラもちゃんと登場しているんですよ。
潜水艦が必要だったらオリジナルキャラに使わせろよ!
イルカに乗れ!!イルカに!


ラストになっても主人公が成長していない。
1900年のジョージは最後までリサリサのことしか考えていないし。2012年のジョージもカーズに頼りっきり。
ジョジョってのは、最後に主人公が覚醒したように何かを悟って人として成長した姿を見せるはずなのにそれが出来ていない。舞城作品でも最後に主人公が「○○はあーだったけど、俺はもっと正直に生きる」的な前向きな意志があるだろ。
それがこのラストのヘボさ。
「凄い夢みちゃったな」的な最後まで実感の無い軽いノリ。


これは完璧な推測だけど。
発売時期がかなり遅れた事と、この内容から。
これって序盤のプロトと後半のプロト違うよね。
序盤のかなり真面目なプロトで話を組み始めたら途中で行き詰って締め切り延期しまくって、編集に「兎に角書き上げてください」と泣きつかれて、ディスコ探偵のネタを使いまわして勢いで書き逃げたよね絶対。


誰にもお勧めしません

*1:主人公が仗助ではなくオリジナルキャラ。オリジナルストーリー

*2:間接的に自身を助けてくれる神様みたいなもの

*3:つーか、困ったら「全部ディオの陰謀」っていう、「ゴルゴムの仕業だ!」みたいな扱い方やめろよ。