見晴らしのいい密室/小林泰三

2003年に発売した『目を擦る女』から「脳喰い」「空から風の止む時」「刻印」の三篇を除き、「探偵助手」「忘却の侵略」「囚人の両刀論法」の三篇を加えて再構成したもの。
短編集なので個別に

見晴らしのいい密室(原題:超限探偵Σ)

あらすじ:超限探偵Σと探偵助手の下に舞い込んでくる密室事件。
感想:超限探偵Σが出てくる『大きな森の小さな密室』に掲載されている「更新世の殺人」を先に読んでしまったのでΣがアレだと分かっていた事でちょっとビックリが削がれた。それでも酷い話ですよ(褒めとして)

目を擦る女

あらすじ:引っ越してきたのでお隣さんに挨拶に行った操子は、お隣さんの「大声を出されると起きてしまうから気をつけて」といわれる。お子さんかな?と気を使うとどうやら子供はいない模様。じゃあ誰が眠っているのですか?にお隣さんは言う「眠っているのは私なの」
感想:小林泰三作品で頭のおかしい女なんて、ドラえもんに於ける秘密道具レベルで登場して好き勝手に持論をぶちかまし、世界観をゆがめていくのでコレくらいの女なら…。と思っていたら、物語は変な方向に傾いていって…わぉ!

探偵助手

あらすじ:探偵と探偵助手の下に女性の依頼主がくる。(物語が短いからコレしか書けん)
感想:物語の合間、合間に挿絵のようにQRコードが印刷されていて、携帯でQRコードを読み解くと探偵助手の気持ちが読めるってのは斬新だった。事件自体は平凡だけど。

忘却の侵略

あらすじ:誰もいない教室で妄想の助手と最近巷で起こっている怪事件を語り合う主人公。そこに恋焦がれるクラスメイトの祐子が現われる。そして怪事件の犯人に祐子が襲われ
感想:主人公のロジックな追求の仕方。全てを観測によって初めて存在するという認識が面白く。犯人との戦いも彼ならではの独特な対決で面白かった。ラノベみたいな世界観の中で飛び出す小林泰三節が笑える。

未公開実験

あらすじ:博士に呼ばれた三人は、タイムマシンで帰ってきたと答える博士に遭遇する。
感想:オチが唯一読めた話。『完全・犯罪』に掲載されている「完全・犯罪」同様にタイムマシンをテーマにした話。ただし、この作品はかなりギャグよりである。

囚人の両刀論法

あらすじ:地球から遥か遠くに飛ばされた男が、未知の生命体とのコンタクトを取り、囚人のジレンマを軸に文化が繁栄するために必要なのは利己的か利他的かで語り合ううちに男は地球での過去を思い出す。
感想:ハヤカワ文庫らしいSF作品。宇宙を舞台にした小説は苦手なので読み勧めるのが辛かったが。それでも最後の展開は面白かった。現代パートと過去パートの切り替える瞬間が分からず最初は戸惑ったぜ。

予め決定される明日

あらすじ:渡される計算式をソロバンで黙々とこなすだけの算盤人の主人公は電子計算機さえあれば計算速度は増すと、電子計算機が存在する現代へとコンタクトを取ろうとする。
感想:ファンタジーモノかと思わせて、あのオチ。最後の作品としては小林泰三作品のラストを締めるには最適だけど。とって付けたようなあのオチ。算盤人のアフターフォロー無しかよ…。


小林泰三入門書としては出来がよい。(もちろん玩具修理者が入門としては最適だけど)
『目を擦る女』が絶版していてブックオフを巡るかアマゾンのマケプレで高めに支払うしかない状況だったので、そこを定価で買えるようになったことは嬉しい限りです。
収録されなかった三作品もどこかに収録されて欲しいなぁ。
あとΑΩの再販もどうにかして欲しい。

見晴らしのいい密室 (ハヤカワ文庫JA)

見晴らしのいい密室 (ハヤカワ文庫JA)