クロユリ団地

あらすじ:進学の為にクロユリ団地に引っ越してきた二宮明日香(前田敦子)は、隣の部屋に引越しの挨拶をするが音沙汰が無い。その夜、隣の家から怪音が聞こえ、朝になるとベルの音がけたたましく鳴り響く。その不満を家族に告げるが、家族は何も聞こえないと言い出し…。

予告編↓

感想(ネタバレ有):
最初に、TVシリーズや予告やCMで散々「ミノルくんってのが恐怖の象徴なんだよ」と伝えてしまった事が敗因の一つ。それによって、後半で「ミノルくんは幽霊だったんだ」と種明かしされても「そうだろうなぁー」と驚けないし。その前で明日香の秘密を喋っても「ミノルくんは?」とミノルくんに注目してしまっている為にその秘密に驚けない。(明日香の秘密は驚くどころか、普通に観ていると先読みできてしまう話だったが)
あくまで恐怖のシンボルはごまかすべきだった。(クロユリ団地が昔は処刑場だったとか言うミスリードを入れて『呪われた団地』を作り出す事の方が想像が広がったのではないか)
もし、ミノルくんが幽霊だと明かすのならば、ミノルくん誕生の話はもっと想像を上回るグロい話でなければいけない。(誤って焼却は温い、在り来たり。人によって死因の噂が違っているとかなら面白かったかも)

昔、テリーギレアムがホラー映画の作り方について「現代のホラー映画は、怖いシーンを連続して映すが、それは効果が薄い。ホラー映画とは何気ない日常にあえて違和感を作り出すことによって観るものの想像力を刺激させ怖がらせる事が大事だ」と喋っていて。大いに頷いたが。
そもそも、ジャパニーズホラーは海外ホラーと違ってビックリ系の怖がらせ方よりもそういった日常に潜む違和感を得意としてきたと思う。
この映画も謎の古びたダンボール・家族が毎朝同じ台詞を繰り返すなど。怖がらせる演出を散りばめているのだが、それが見事に効果を出していない。
家族の異常行動は、家族の登場回数の少なさや刑事に質問されているシーンで家族が映らない様子で予想が付いてしまった。ダンボールはミノルくんとの関連(フッテージを観た後だったので)を予想したがこれは見事に外れた。
異常行動といえば、隣の部屋にズカズカ入り込む明日香には苦笑した。
あのシーン。製作者の意図としては「学校で老人の孤独死という問題を知った明日香は、隣の部屋の住人もそういった状態なのではないかと心配になって乗り込む」なのだろうが、シーンが切り替わってすぐに乗り込むのでは関連しているとは思えないではないか。夜聞こえた怪音に「たす…(たすけて)」などの声を混ぜる事によって、「たす…ってまさか助けて?」+「孤独死の記事」の二つが交わり明日香の行動の理由が分かりやすくなったと思う。(怖さは半減するが)
成宮寛貴演じる笹原忍が明日香を気に掛ける意味も微妙だった。昔の彼女に似ているとか、同じように「過去にすがって生きている」という共通点から忍は明日香を心配していると劇中では言っているが。中盤の狂った明日香を見捨てない気持ちは良く分からなかった。見ず知らずの人間にそこまでする理由は何だったのだろうか。そんなに心配しても結果がアレでは実に報われない。
ミノルくんが、リングの貞子や呪怨の伽椰子&俊雄のような圧倒的なインパクトが無かった事も悲しい。顔半分が燃えているくらいでは誰も怖がらないだろう。ゴーストライダーのニコラスケイジは燃えた髑髏だぜ。
後、取り憑かれるルールももうちょい考えて欲しかったな。見た限りだと「出会って約束して遊ぶ」っぽいけど。それって凄く合理的というか当たり前で面白味が無い。「ビデオを見てしまう」とか「空き家に入る」って、何気なく日常でやってしまう可能性があるし、その行為自体は幽霊と係わりが無いのに、後々それが原因で怪奇現象が起きてましたって分かるのは「意外な接点」で面白いと思うんだ。ミノルくんの行為は契約っぽくて不条理を味わえない。
「ドアを開けるな」シーンはどっかで誰もが聞いた事がある怪談をまるまるパクっているので解釈の仕様が無い。クソッタレ。
全体的に、明日香の過去に比重が置きすぎていたよな。アレ無しで2時間全部ミノルくんの話にして、ミノルくんの過去やミノルくんの家族の現状なんかを映して、生前のミノルくんの様子から、団地という他人同士が住まう集合住宅に於ける個々のコミュニケーションの減少、または派閥化、孤独死か見える限界集落のようになってしまったマンションなどの現代社会の問題を散りばめた方が面白くなった気がするけど。明日香の話は、合間合間に入れ込んで最後に明日香の秘密をざっと流して日本映画お得意の「投げっぱなしジャーマンスープレックス展開」で「後は観客が察しろ」という終わらせ方。(ミノルくんの真相は続編に持っていく予定かもしれないけど)


総括。
ホラー映画なのに、劇中一度も怖いと思えるシーンが無い珍しいホラー映画です。
AKB主演の『伝染歌』とドッチが酷いか比較すると、ドッチも酷いです。
前田敦子さんの演技はそれほど悪くない。言葉に感情を込めようとしている姿勢が見れるし、介護学校で死人のような目をしている演技なんかは「本当に仕事が過酷なんだろうなぁ」とコッチが心配してしまうくらい死んだ目をしていて上手です。その後の狂乱シーンも麻薬中毒患者みたいで、暴れる女よりも「触っちゃイケナイ系の女」という雰囲気が醸し出されていて「コイツはやべぇ」と恐ろしく思いました(あ、怖いシーンありました)
前田敦子ファンなら観に行っても損は無いでしょう。



余談。
wikiを見る限りだと、これはパチンコ会社が自社のパチンコ台を売る為に秋元康と日活を抱きこんで作った映画なのね。
あー、じゃあこれくらいの出来で良いんじゃね。