ザ・マスター

あらすじ:第二次世界大戦終戦後のアメリカ。戦争によって精神病を患ったフレディは仕事に就いても癇癪を起こしてすぐに辞めてしまう。仕事を点々とするフレディはある日、大勢の信者を持つカリスマ的指導者ランカスターに出会い、彼の思想に傾倒していくのだが・・・。
予告編

感想(ネタバレあり):
上映時間が2時間弱あるけど、そんなに凄い話じゃないので注意。ドラマ性というか物語の起伏があんまりなくて、暴れん坊のフレディと教祖のランカスターの二人の男が話し合っているシーンが殆どだったりする。もちろん物語を作る為にランカスターの奥さんがランカスターを操って教団を裏から動かしていたりするけど。フレディとランカスターと奥さんが一部屋で話し合っているシーンなんかは、フレディの暴力性とランカスターの無垢ともいえる純粋な知的欲求心と奥さんの欲望が一つに同居していて、人間の頭の中を擬人化したようだった。
フレディはランカスターの宗教に入り込んで、「うわぁ、信仰ってマジ最高。何か一つを信じる事って安心でくるわぁ」って感じに落ち着いていくんだけど。「美人は三日で飽きる」とは言いますけど。落ち着いたゆえにいろいろな物が見えてきたフレディはランカスターの教義に違和感を覚えていくわけですよ。フレディの気持ちなんてなんのそのランカスターは落ち着いたフレディを見て、自分の考えた教えは間違っていなかったと自信満々に新刊だしたり、大勢の信者の前で「笑う門には福来る!(的な事)」を叫び始めて。信者の一部からも「何言ってんの?」とか言われたり。フレディ自身もそんな暴走するランカスターの行動に「やっぱ、こいつの言っている事おかしいわ」って確信を強めていく。
その最たるシーンが「目標設定ゲーム」。
まったいらな荒野を自分で決めた目印に向かってバイクを走らせていくだけのゲーム。ランカスターはフレディの暴力性を封印する事も出来たし新刊発売も出来たと意気揚々にバイクを走らせるのだが。フレディからすれば、全てはランカスターの教義によって救われたので「自分で目標を決めて一人でバイクを走らせるゲーム」なんて絶対にやりたくない訳だ。教祖と信者の関係が最高だと。(フレディとランカスターは言葉を重ねるうちに父子関係のような繋がりになっていたから。ランカスターからしたらフレディを自分のようになってもらいたいのだと思う)フレディはくだらないゲームから逃げ出す。
結局ラストは、昔結婚を約束した女の下に戻るが、女はすでに他の男と結婚していた。行く当ても無く、ランカスターに呼び出されて話し合いをしても昔のような気持ちになれず。彼は酒場で見つけた女性とセックスしながらランカスターのモノマネをしつつ砂浜で抱いた砂で出来た女のことを思い出す。
終わり。
二人がその後どうなったかとか、一切やらずにフレディは身体から吹き上がる怒りの衝動を失い、目標も失い、全てを失って終わり。(邦画だったら自殺エンドだっただろう)

とまぁ、簡単に話すとつまらなそうな映画だけど、出演俳優はベテランで実力派ばっかりだから観ていて飽きることは無く演技を楽しめる。内容はあっさりしているんだけど、見終わった後に心に残る不思議な映画。(近年では既存の宗教への信仰心が薄れていくが新興宗教は数多く乱立する。現代人は多くの物を疑いながらも何かを信じたいジレンマにもがいているという皮肉かもしれんなぁ・・・)