飛行迷宮学園ダンゲロス『蠍座の名探偵』

あらすじ:思春期に特殊能力に目覚めた超能力者『魔人』と一般人が暮らす世界の物語。
魔人が多く在籍する『希望崎学園』の「番長グループ」が何者かによって襲撃され死者が多く出る事件が発生する。番長グループの残党は、この事件の犯人を魔人を忌み嫌う魔人ゼロの『天道高校』の仕業と見定め、天道高校に報復に出るのであった。



感想(ネタバレ無しver.):
この作品は前作『戦闘破壊学園ダンゲロス』の続きですが、パラレルワールドみたいな設定ですので前作を読まずとも楽しめますが、世界設定や某組織メンバーの特徴などの説明が簡略化されていますので、やはり前作からお読みになられるのが得策ではないかと思います。
ちなみに、前作は番長グループと生徒会の戦いを描いたアクション能力者バトル小説でしたが、今作は陸の孤島と化した学園で巻き起こる連続殺人事件をテーマにしたミステリーとなっております。しかしながら、前作のような能力者バトルが主体となり、前作をお読みになった方では”待望”の。未読の方では「そんな能力ありかよ…」の某組織の人間が派遣されます。特に見所は惹句が指す「無限の攻撃力と防御力VS勝利を約束された主人公の力」の戦い。TVゲームで言うなら、アクションリプレイを使って攻撃力も防御力もカンストした自キャラとゲームのシナリオ上絶対に勝てないキャラの戦い、が実に楽しい。TVゲームならいくらダメージを与えても倒れない敵キャラに、プレイヤーは「これは負けなければ話が進まない系だな」とあえてダメージを受けて負けるでしょう。プレイヤーはその敵キャラを倒す事が目的ではなくゲームのクリアが目的だからです。しかし、それが「TVゲームの中ではなく現実に起こったら」、その戦闘が「決して負けられない戦いだったら」
これ以上は書きませんがこの戦いでのチートキャラの不安が実に良いです。
ミステリーといっても、それほど難しくない推理なので肩肘張らずジョジョハンター×ハンターめだかボックスでも読むようなそんな気持ちでお読みください。




感想(ネタバレ有ver.)
前作は番長グループVS生徒会の能力者VS能力者という戦いに教諭が召喚した神に祝福された、無限の攻撃力と防御力を併せ持つ転校生の三つ巴戦でしたが、今作は魔人ゼロの一般校に番長グループが乗り込み天道高校生徒会長の召喚された転校生が応戦という能力者VS転校生という図でしたな。それも、世界設定で転校生が謎の存在ではなくそれなりに知れ渡っている世界。番長グループも即座に敵が転校生と知り対策を練るという、スピーディさ。対策と言っても、「大銀河を待とう」「番長ならやってくれる」という他力本願でしたが。そこら辺の『頼られている』『番長がくれば勝つ』という流れも大銀河の「ヒロイズム」の能力かもしれませんが。主人公にお膳立てがされるっていう。
大銀河がくるまでは、鈴木よりも鵺野が完璧な主人公でしたね。「戦車が好き過ぎて、常に砲台にアソコを貫かれたい衝動を抱き続けた結果戦車と一体化した女子高生」の後では「強化クワガタを使役する能力」とは意外と普通だなと思っていたら、正しい能力は「クワガタとコミュニケーションを取る能力。であり、仲良くなったクワガタと自己鍛錬し共に強くなったクワガタを操る」には、なんて面倒臭い能力なのだろうと思いました。
面倒臭い能力といえば、ポイズンジャイアントパンダの登場時の圧倒的な存在感と能力、そして裏腹のあっけない終わり方。
後半の小泉の「極度の乱視であった小泉は、乱視によって曲がって見える世界が正しく、世界が見えるように曲がってないのはおかしい。と認識し、曲がって見えるように世界の形を捻じ曲げる能力」には、カッコよい設定と素直に思いましたわ。あの小泉の能力で視界を捻じ曲げ、左右の認識を失った鵺野が地面を打ちぬき下界にくだろうと画策した瞬間、園城寺の上下をひっくり返す能力で防ぎ、森野の力で火責めコンボが燃えた。三人のなんでもない攻撃がとんとんと決まっていくのが良かったなぁ。
そして自分的には、今作のミステリー部分はどうでもよくて、内容的にはどうでもよくはないが、読んでいるうちにそれなりに解いてしまったので。
大銀河VS鵺野戦。
戦闘中に明らかになる大銀河超一郎の『主人公補正』という世界中の物語に登場していながら、一度たりとも能力者バトルには紹介されなかった能力。
しかしながら、裏表紙に書かれている「果たして今回のの主人公は本当に大銀河超一郎なのだろうか」という言葉が予見させる危機感。
戦いながら「ヒロイズム」の効果による、言いようの無い不安に襲われつつ能力の解明に思考を巡らせる鵺野と「いってぇ、スゲェ突きだ。アバラのニ、三本はイッたぜ」と苦しんだり、胸に入っていたロケットのお陰で助かる等の実に主人公らしい行動を無意識に取り続ける大銀河。このギャップには、ワクワクしながら読んで、『大銀河の能力は主人公補正を受ける事』には腹抱えて笑った。
そして、それに気付く鵺野と主人公補正の甘さを感じて、不安になる大銀河も良かった。
最初から最後まで、今回の主人公は大銀河ではなかったのだけどね。
それにしても、ヒロイズムを封じられた大銀河が「『カッコ悪ィ』事をしちまうと、しばらくの間はなんとかなる気がしなくなる」の言葉。ようは、本人が罪悪感を忘れた時にヒロイズムは復活するって事か。なんたる適当さ。それは実に魔人らしいが。
最後に『蠍座の名探偵』が現われて、「大きな謎を残し次回に続く」みたいな終わりでしたね。「十三の殺害属性をの一つ「虐殺」を司る――」には、中二病過ぎるだろと戸惑ってしまったが、これがダンゲロスであり、これだからダンゲロスなのだと妙にシックリ。
第三弾にはやくも期待。

飛行迷宮学園ダンゲロス―『蠍座の名探偵』― (講談社BOX)

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P.S
前作のようにもっとエログロが欲しいです。

P.S2
夜夢の報われなさ……。