夢の中での日常・われ深きふちより/島尾敏雄

あれは幼少期の事であった。
祖父に連れられて夏の照りつける熱線を浴びながら祖先の墓参りにアスファルトの道を歩いている時だ。
8メール先のアスファルトが海流に身を任せる海草の如く揺れていることに気づいた。
今思えば、それは単なる陽炎だったのだが、当時の私はそれが何かとてつもなく恐ろしく、悪い事が起こる予兆のように感じたものだ。


そして、島尾敏雄の話になる。
一昨年の読書ブームの際に戦後の騒乱と復興を描いた作品をよく読んでいたせいか、現代小説よりもそこら辺の作家が大好きです。
現存する奇人の数倍の奇人が当たり前のように存在する戦後。そしてそれを容認しているのか、構っている暇が無いほど復興に身を粉にしていた人達の営みが最高に怖い時代です。


お粗末だが、私は島尾敏雄についての知識は無い。
この本も図書館でたまたま手に取っただけなので深い意味は無い。
そこら辺を理解しつつ感想をお楽しみください。


『夢の中の日常』
あらすじ:小説家の私は、掲載される予定の雑誌の発行を楽しみにしつつ、新たな小説の題材を探す為に町の不良団に入団する。そこの少女に手を出すと企み、癇病を患っている友人からコンドームを買う。癇病の感染を恐れ、頭上を舞う飛行機からの落下物に怯え、風の噂で聞いた生き別れの母の住む家に向かう。ついてについてきた親父が母の隠し子に激怒して、その怒りを代わりに受けとめたら、歯がボロボロになって口の中にセメントの味がする話。


感想:あらすじを読んでみてもらえば、分かるように「なんのこちゃ」と言いたくなる話です。
ようは、タイトル通りに『夢のような日常(悪夢という意味で)』を描いた作品です。ほぼ一人称語りで魅力的な萌キャラも出てこなければ、「JAM Project」をBGMにして赤字の弾幕を入れたいと展開もありません。ただ単に、「昨日さぁ、変な夢見てさぁ」というくだりから発しられそうな困った話です。
今思えば、何故読んだかのかさえ判りません。
ただ、雰囲気小説としては。はたまたキバヤシ並に深読みが大好きな方は是非お勧めです。



『われ深きふちより』
あらすじ:妻がメンヘラなので病院に付き添って通院しているんだけど。神経科と精神科ってどう違うの?つーか、ヤバ目な患者ばかりだな。ちょっww俺は正常だって。入院はいらねぇーって。
という話。


感想:『夢の中の日常』に比べて、比較的読みやすく理解しやすい作品です。
作者が妻の付き添いで行った病院を軽く紹介して、妻の病状を軽く説明して、自分のいい感じに軽く発病している話です。
奇人と作者の心模様がとても繊細に表現されているのでそこら辺を中心に読んで欲しいです。
後半に書かれているみんなが輪になって踊り狂っている描写は、頭の中でイメージすると「うわぁ、危ないお薬を服用した状態みたいだなぁ」と思い、その後に登場するもっと上級者の危険人物達の参加に作者が冷静を取り戻すシーンではもはや僕の想像はさながらディズニーランドのエレクトリックパーれードのようでした。




総合感想:悪い夢を観たい人は必見。
そして、二作品を読んでどれも、あの日の陽炎を思い出すのは、きっとどれもがおぼろげなで儚く、そして主成分の分からない恐怖を含んでいる為と思われます。